劇場公開日 2022年4月22日

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「共存のバランスが崩れるとき」山歌 shironさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0共存のバランスが崩れるとき

2022年4月18日
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鑑賞方法:試写会

大切なことは全て映画から教わってきました。
『砂の器』や『瞽女GOZE』と併せて見ておきたい。

日本にも流浪の民がいたことを初めて知りました。
彼らの暮らしぶりや文化、コミュニティの規模も知りたかったのですが…
映画が描いていたのは「ラストサムライ」ならぬ「ラストサンカ」。
サンカ達がなぜいなくなってしまったのかが、主人公の葛藤を通して描かれていました。

高度経済成長でインフラが整備され便利な生活を手に入れた時代、“豊か”の価値観が統一されたのと引き換えに、多様性の“豊かさ”を失ったのかもしれないと思えました。
お互いのテリトリーを侵さず共存できていたものが、一方の価値観の押し付けでバランスを崩してしまう。
それはサンカに対しての限られた話しではなく「人間と自然」「国と国」も同じ構図に思えて、今の時代に考えさせられるテーマでした。
警官から受ける圧力は、サンカの生活や文化を否定するもので、とても暴力的に感じました。
みんなが一つの価値観に統一されるのは恐ろしい。

監督は「1965年を境にサラリーマン社会になった。」とおっしゃっていましたが、その代表のような主人公の父親は、ホワイトカラーになるのが息子にとっての幸せだと信じて疑わない。
豊かさをお金ではかる時代になり、日本という国家に連なるにも納税の義務が伴う。
財産を持たないサンカには、生きづらい世の中になってしまった。
土地や山も誰かの所有物となり、立ち入ると不法侵入。
山で採れたものや細工品を里山の人に売るにも行商には届出が必要となり、押し売り扱いで警察沙汰になるしまつ。
その昔、里山の人にとってサンカは外の世界の情報を運んでくれる存在であり、歌や踊りの非日常をもたらしてくれる存在であっただろうに。

自然の描写が素晴らしく、かつては大勢のサンカが集まった大木によりかかるシーンでは、木と人とが一体になっているようでした。
渋川清彦さんの気軽には寄せ付けない野生動物を感じる佇まいがすごい!
杉田雷麟さんの鬼気迫る演技。
小向なるさんの野山を駆ける身軽さとしなやかさ、真っ直ぐな目ヂカラも印象的でした。
そして、蘭妖子さんの存在に興奮しました。

shiron