破戒のレビュー・感想・評価
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演技が上手
人間の弱さと希望
原作既読。
兎にも角にも、間宮祥太朗劇場である。もちろん他の俳優さん達もみんな素晴らしかったです。でもやっぱり間宮の観る人を惹きつける演技は別格。眞島秀和も凄かった。脚本、演出の力も大きいですが、上記の2人は迫真を通り越して鬼気迫るものを感じました。
原作はあまり覚えていないのですが、改変はラストくらいでしょうか。終盤はとにかくドラマチックに、観客の心を大いに揺さぶる演出になっていました。この点はエンターテインメント作品としても優れていると言えるでしょう。
静かながらストーリーに優しく寄り添う劇伴が素晴らしい!間宮演じる丑松の心情を見事に表しております。
どの場面も思い出しただけで胸が締め付けられるような、差別と闘う若者の苦しく切ない物語。原作は当時の社会に対する問題提起の側面が強かったですが、本作は現代的に、よりドラマチックなエンターテイメント作品に仕上がっています。
とはいえ、やはり無視出来ない差別問題。現代においてはルッキズム、ジェンダー問題、SNSにおける誹謗中傷等、表面的な違いはあれど、根本的な問題は近いものがあるのではないでしょうか。結局、人間は誰かを批判している時は自分が正しいと思って安心感を得てしまうのです。作中、丑松が言っていたような「互いを尊重しあえる」社会を目指したいものですね。
⭐︎3.8 / 5.0
日本の過去
作品名と著者を線で結ぶ問題に出て来る
島崎藤村、菊池寛、芥川龍之介、夏目漱石、山本有三、与謝野晶子、近代文学史で見かける面々とその作品名を知ってるし他の作者は大抵数冊は読んでいるのに どういうわけか島崎藤村だけは一冊も読んだ事がない。
なので有名な題名のこの内容が被差別部落を扱ったものだというのを今の今まで知らなかった。
私は被差別部落の存在は、高校の時に「にんげん」とかいう小冊子が学校で配られて何の事かわからないでいたのを 誰かが教えてくれて知った。
私は高校を地元に行かず、寮生活しながら遠方に通っていたので、その後大人になってうちの地方にはそんなのないよね、と親に話したら とんでもない 私が一番仲の良かった靴屋の子はそうだったし、よく行く肉屋もそうだったと そしてそこの娘さんたちの結婚は大変だったのだと初めて聞いたのだった。
親は幼い私にそういう話は一切しなかったし親戚の叔母達もいっぱい周りに住んでいたが、子どもにそういう話をすべきではないと心得ていたのだろうか。
もし仮に「にんげん」という冊子を学校で配られずにいたら私は知らないままだったのではないか と思う事がある。
そう思うと こういう部落解放運動って しない方が風化していくのではないかなと
でも当事者の一部の人々は「知って そして差別をなくすべき」
と考えてるらしく。
今のこの世の中、この映画の冒頭のように 同じ旅館に泊まると畳も変えて塩撒く〜 みたいなのは まずないと思うし
この彼が東京に出て就職先を探すように 昔は1箇所にまとまって集落を作り 知名で出自が知れていたような事はなくなった(たぶん)わけで、ほんとにこういうのは教育はしない方がいいんじゃないかと思ってる。
こういう映画になると、まあ間宮祥太朗だし、全く昔の話よね、と若い人は思うのだろうか。
今 実質的に現存するのは 逆差別ともいうけど つまり税理士事務所を同和系にすると査察が入らないと聞く。
これは実際 紹介された経験があるので 確かにあった。
(今もそうなのかは知らないんだけれど)
そう言えば 昭和の大物政治家 野中広務が自分は部落出身だと公言してたのは印象的だった。
関西地方は同和の問題と在日の問題が深く結びついてる場所もあると聞く。
同じような境遇が同じように集まって特殊な集団を形成したのだろう。
私の知人の少々有名な地位の息子さんが大阪のその地区の女性と結婚したんだけれども それはそれは盛大に式を上げて私達夫婦も呼ばれ モデルのような細身の体に美しい小顔が驚くくらいだったのに 二、三年で離婚。
そして その女の子に聞いたのが 最後まで入籍しなかったのだという話で ほんとにびっくりしたものだ。30年以上昔の事だけれど。
こういった差別は 職業が屠殺や死体処理だったりして そういう四つ足の肉を食べなかった時代ならまだしも、しっかり産業として根付いてる現代においては尚更(まさに本人には全く罪がないわけで)ただの言い掛かりに過ぎない。
そういうアホな時代もあったよね
という風に風化していくべきであるし、誰がそうなのかもう全然わからなくなってしまうのが一番いい。
秘密を抱えた人生
ハカイとは?
タイトルの文字に込められているのは、人の心の中に潜む「認識」や「レッテル」などによる「決めつけ」という「戒律」を破壊したいという思い。
主人公瀬川が生徒たちに話した「何が正しいことなのか? 正しいことをするにはどうしたらいいのか?」
正しいことは時代によって異なる。これは重要なポイントだ。普遍的な言葉を遣えばそれは、「今考えるべき最も順位の高いことを抽出する」とでも言おうか。
当時の社会にこびりついていた前時代からの階級と階級外の身分。
瀬川は父の強い言いつけによって、自分の身分を隠し通して教師になった。
作品は、この時代のテーマを選挙運動を通し、また人々の考え方を通し描いている。
自分の身分を公表しながら本を執筆して人々から賛否両論される猪子廉太郎。彼に対するあこがれを持つ瀬川。どうしても彼のようにできない歯がゆさと怖さ。この主人公の葛藤こそがこの作品の見どころとなっている。
瀬川は言う。「なぜ自分の故郷を語れない なぜ好きな人に思いを伝えられない なぜこんなに苦しまなければならないのか なぜ?」
告白したい気持ちと差別される恐怖。
明治になってすべての階級がなくなったにもかかわらず、旧藩士、旧商人、旧農民、そして部落民と呼ばれる旧えた。
かつての階級社会を打ち壊して国を作っておきながら、今度は「国のために」と称して子供を戦争に参加させるための教育をする。そしてその批判者を鉄槌する言動に対する是非。
瀬川は「差別は人の心から消えにくいもの」と言ったが、人は誰も対人関係において、必ず「自分の認識」というフィルターを通して対人を吟味し、何らかの「序列」を作るものだと思う。絶えずその人を判断し、ジャッジしているのだ。この根幹を変えることこそ難しいと思う。
やがて瀬川はギンノスケに告白する。教壇を降りる覚悟を決めるのだ。しかし生徒たちは「そのままの」瀬川を見てきた。何の階級も存在しない瀬川そのものを信じて疑わない純真さがある。ここにこそ本当の人間像があるのだと作品は伝えているのだろう。この純真さが大人になってもあり続けるなら、どんなに素晴らしい社会になるだろうか?
瀬川の見送りに参加する生徒たちを叱責して学校へ戻るように指示する勝野らを無視するのは、差別という考えを持つものへのレッテル返しの象徴だ。
こうして、「正しい」とされる行為の勝利で物語は閉じる。
しかし1点難しい箇所があった。
それは衆院議員の妻が部落民であることとその秘密を瀬川に黙秘せよというシーンだ。
背後にあるのは議員が恐れる差別だが、妻の父はたいそうな金持ちで、そのお金で選挙を戦えたし、次戦もそのようにしている。
その事を猪子は指摘したが、そもそも議員がお金と結婚したのかどうかはわからない。
瀬川が猪子と初めて会って話したとき、猪子は議員の妻の素性を知っており、その公表はしないと言いつつ、猪子は金目当てだと決めつけている。
この一見、どちらかが正しく、どちらかが間違っているという構図に、そうとは言い切れない含みがあるように思った。
ここに視聴者が考えるべき点があるのかもしれない。作品側からのお題が隠れているように感じた。
寺の住職が養女のシホに手を付けようとしたことも正義の中に隠れた邪気がある。
軍司学の権威の甥である勝野教師はヒール役として描かれているが、彼の思想は単にその時代の一般常識的なものだと思われる。
もし自分があの教員の中にいたら、どうするだろうか? 瀬川のように明確な思想がなければ、いったいどうやって勝野の主張に対抗できるだろうか?
いつの時代も「変化」がやってくる。
正しいとか正しくないとかも時代で逆転や変化する。
いまこの時代で吹聴されてる「常識など」は「正しい」のか?
そのことに対する意見はないのか?
これこそがこの作品が訴えていることなのだと思った。
伏線やプロットが秀逸でおおよそ当時の作品とは思えない。
島崎藤村が考えた当時の普遍的な部分に「変化」を加えた素晴らしい作品だった。
どうすることも出来ない差別
持つべきものは良き友だった。
55点
上手くまとめられた脚本
原作をaudible で聴き、予想外に面白かったので映画を見てみました。原作は86時間かかる長編小説です。それを2時間の映画に上手く凝縮しています。父親の死や実家への帰省、猪子蓮太郎の病など、いくつかの重要場面がばっさり省略されていますし、台詞も、原作の登場人物とは違う人が喋っていたりしますが、全体のメッセージは損なわれることなく描かれています。
主人公が影響を受ける猪子蓮太郎は、原作では大声を出して主張することはなく、物静かな思想家という印象です。
破戒とはそういう意味合いだったのか
文学史で知った限りの島崎藤村とその作品『破戒』
中身は全く知りませんでした。
こういう題材だったのか。
レビューを見ていると、差別を知らないとかこんな事がというなものが結構見受けられ逆に驚き。
私はいま50代半ばですが、小学校の時には訳も分からず道徳教育の時間が時間割にあったし(その頃は差別問題とは無意識)親や大人に「あの辺に近づくな」と言い聞かされた経験がありました。
社会の歴史でも江戸時代の士農工商穢多非人までしっかり覚えさせられた。
前置きはさておき
当時はもっと色濃く世の中にあった風潮だったのでしょう。
ストーリーから伝わってくる迫力がハンパなく、演じてるキャストの名演にこの作品の品質が増してます。
ホントに素晴らしい出来です。
冒頭の田中要次さんと息子のシーンが全編の軸となり、このワンシーンが無ければ成立しない。
途中のセリフでもありましたが、身分の差別は無くなっても差別の無くならない世界は無い。
確かにな〜と考えさせられました。
差別とはいかに重い罪かを教えてくれる作品。
差別は弱い者がすること
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