ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇のレビュー・感想・評価
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構造的問題がある
世界中で「存在しない」漁船によって行われる違法・無報告・無規制(IUU)漁業。拉致同然に乗船させられた船員は、給料を支払われることも年季が明けて解放されることもなく、何十年も奴隷のように強制労働させられている。船を降りるのは逃亡に成功するか、死んだ時。
映画は、タイの漁業会社のIUU漁船に乗せられたタイ人やミャンマー人を助ける活動に従事するNGO代表のオペレーションに密着する。
インドネシアのパプア沖で操業する船の拠点となっているいくつかの港で聞き込みし捜索した結果、接触できた元船員のうち3人が帰国を希望し、家族との感動の再会を果たす。だが、元船員の多くは母国を離れて何年も経ち(身分証も金も無く流れ着いた船員たちを、現地の人々は保護してきたのだろう)現地で妻子を持っており、1人は「帰りたいがもう帰れない」と涙する。町の墓地には異国の地で生を終えた大勢の元船員が埋葬されている。
なぜ逃げないのか。IUU漁船は洋上で定期的に漁獲物の回収と食料等の供給を母船から受け、漁船自体は何カ月も寄港しない。また上陸する際も、企業と繋がる地元官憲が監視しているため逃げるのは難しい(劇中でも、宿舎と思われる建物に「兵士」と紹介される男がいたり、NGO一行を見張っていると思しき姿が映る)。船員たちは船長や会社側の船員の暴力により支配され、逃亡すれば追跡され口封じに殺されることもあるという。
今回帰国した者の証言が証拠となり、同じ船に乗っていた元船員が会社を裁判に訴えて未払い給与や負傷の補償金を勝ち取ることができた。だがNGOが数千人を救ってきた中で、会社から金を得られたのはわずか2例目という。映画はこうした体験をした被害者が声を上げること、消費者がIUUで漁獲された海産物を拒否することで状況が変わると訴えて終わる。
結論自体はよく分かるし、映画の主眼が人を助けるという代表の信念に光を当てることにあるのも理解できる。
他方、個人的には、それと結論との間に描かれていない部分があると強く感じる。
劇中で指摘されている暴行傷害や人権侵害などの犯罪的行為にも、会社や会社側の人間が刑事訴追されたとの話は(少なくとも劇中では)なかった。一般論だが、こうした会社が存在し続けられる背景は、海産物需要の高まりと資源保護のための国内・国際規制の強化による価格上昇で「カネになる」からであり、特に途上国では取締り能力の不足に加えて、こうした会社に船員を供給するブローカーの存在、漁業会社やブローカーと官憲との癒着が容易に想像される。これを正面から取り上げれば、NGOや制作陣に危害が加えられるリスクがあったのかもしれない。
インドネシアでは2020年、中国漁船で同様に強制労働させられていたインドネシア人船員が暴行死する事件が相次いで発覚し、インドネシア当局が漁船を拿捕、中国人船員を刑事訴追し、中国政府に抗議した例が報道されている。
映画の終盤、3人の帰国の報を受けてか、首相がNGOを訪れ、取り組みを約束する。映画は2018年作であり、その後タイでも状況が変わっていることを願いたい。
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