「映画化のポイント」今夜、世界からこの恋が消えても R41さんの映画レビュー(感想・評価)
映画化のポイント
解説を読んでなるほどと思った。
2022年の作品
アイドル俳優 彼らを盛り上げるために配置された実力俳優
そして原作の存在
さて、
この物語に感じるのはやはり「君膵」の型
それは真似ではなく「モジュール」であることは間違いない。
原作は未読だが、映画化するにあたり脚本が整備されているので、原作との違いは明確にあると推測する。
加えて、ラストシーンの音楽は、「君膵」や「君の名は。」の作曲家とは違うが、その音階、コード進行は非常によく似ていた。
この点からこの映画は、それらを意識していると感じた。
この物語の作りは非常に凝っている。
君膵における二人の恋愛に加え、親友イズミの存在やトオルの家族関係、そして何よりマオリが事故で記憶障害となって、眠るとその日の記憶が消えてしまうという設定
そして「実は」という大どんでん返しが予想できてしまうほどわかりやすくなっている。
ただそこにはミスリードもある。
多彩な仕掛けがこの物語を面白くさせている。
そしてストーリーは緻密で、非常によくできている。
また、病気と恋愛、友情と家族、伏線に仕込んだ母の心臓病と突然死
それぞれの背景もかなり作りこまれている。
さて、
この作品の評価の難しさは、着地点にあったように思う。
記憶が残らないマオリ
しかし自転車に乗ることや絵を描くことなど、身体的に憶えたことは身体が憶えている。
「手続き記憶」
どうでもいいが、「記憶がどこにあるのか」という問題に関し、新しい学説が出た。
それは細胞と細胞の間にあるのではないかという。
この部分が物語にあれば、この作品はもっと面白かったかもしれない。
この手続き記憶によって、マオリは「たとえ今夜、この世界から恋が消えても、トオル君は私の中に存在する」
これが着地点だった。
複雑かつストーリーにブレのない物語
ただ、感情のピークがブレてしまっていた。
感情のピークはおそらくイズミ側にあった。
この物語全体を描写していたのは、マオリの日記を読んでいたイズミだ。
つまり、この作品の大半がイズミが日記を読みながらその光景をイメージ(回想)したものであることがわかる。
それは確かに記憶が残っているマオリが書いたものに違いない。
イズミの表情がパートパートで抜かれ、その意味することを視聴者は想像する。
アイドル主演の作品という「推し」で脚本とカットがそうなったのだろう。
この物語はもっともっとイズミが登場しなければならないように思う。
イズミが、事故後3年経ったマオリの記憶が回復し始めたことを知る。
トオルの遺言だった「自分の名前を削除してほしい」という依頼
罪悪感が募り、トオルの姉に相談 そして実行したこと
これが正しいのかどうかずっと答えが出せないイズミ
胸が引き裂かれる思いで盗み出した日記
ボードに貼ってあった付箋 「神谷透くんを忘れないで」
手続き記憶で書いているマオリの「誰かの絵」
ここが感情のピークだったし、こここそが物語のクライマックスだった。
原作はわからないが、イズミがもっと前に出なければならないように感じた。
この物語の本当の主人公はイズミのはずだ。
しかしながら、映画を作るためには資金提供する側の想いは絶対だろう。
それがなければそもそも見ることなどできない。
なかなか素晴らしい作品ではあったが、惜しい感じもした。