「心は君を描くから」今夜、世界からこの恋が消えても 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
心は君を描くから
韓国で大ヒットしているらしい。韓国で公開された実写日本映画歴代2位で、1位の『Love Letter』に肉薄。
確かに韓国でウケそう。韓国ラブストーリーでお馴染みの“記憶障害もの”。
韓国のみならず、記憶障害×ラブストーリーは古今東西鉄板ジャンル。本作もその例に漏れず。
三木孝浩監督さすがの手堅い手腕で、氾濫する若者向けラブストーリーの中でも凡作にならず、記憶に残る。
こういう題材の場合、記憶障害側と支える側というのが定番設定。
そうでありつつ、双方の視点からでも“訳あり”恋物語になっている。
女子高生の真織。朝起きると、部屋中にメモが。
彼女は事故の影響で“前向性健忘”という記憶障害に。眠るとその日の記憶を忘れてしまう…。
この事を知っているのは両親と、親友の泉。
毎日毎日“昨日の私”が書き残した日記を読み、何があったか引き受け継ぎ、何事もなく“今日の私”でいる。
日記に気になるメモが。“神谷透くんのことを忘れないで”。
画を描くのが上手な真織。泉によると、たまたまモデルになってくれた人らしいが…、彼の画が幾つも。
その透。
ジャニーズが演じているので若者向けラブストーリーお馴染みのモテモテイケメン王子と思いきや、これと言って取り柄の無い平凡な男子高校生。
唯一の取り柄は、優しさ。クラスメイトへのいじめを止めさせる為、促されるまま同級生の女子に告白。
いじめっこたちは見事にフラれる所を嘲笑うつもりでいたようだが、何とOK。条件付きで。
その女子が、真織。
記憶障害の真織と偽の告白をした透。
真織は透の事情を知るが、透は真織の記憶障害を知らない。
ひょんな事から“偽りの恋人”として付き合い始めた二人。条件が3つ。
放課後まで他人でいる。連絡は簡潔に。本気にならない。…
翌日になると全て忘れてしまうので、透の事をこと細かくメモり、明日の私に引き継ぐ。ぎこちなさや初々しさがいじらしい。
ある日の公園デート。ぽかぽか陽気で、真織はつい寝てしまう…。記憶がリセットされ、目の前にいる“彼”が分からない。何とか日記で状況を理解するも、真織は記憶障害の事を透に打ち明ける。
真織の事を思いやり、真織の苦にならないよう、打ち明けた事は明日の私に秘密にし、偽りの恋人を続ける透。
明日の日野(真織)も僕が楽しませてあげるよ。そう言って。
真織の画の才能に名アドバイス。記憶は忘れてしまうが、画を描く記憶は覚えている。“手続き記憶”。
本気にならない。割り切っているつもりが…、頭では分かっていても、心は正直。
次第に惹かれ始める。真剣になっていく。
花火の下で、初めてのキス。
明日にはまた忘れてしまうかもしれない。日記で読み返せば何があったか知れるけど、この記憶と想いを覚えていたい。
本気になってもいいよね…?
事情を抱えている真織だが、透もある秘密を抱えている。
父親は小説家を目指すも、全く書けず、自堕落な日々。
そんな父と二人暮らし。家事は全て透が請け負っている。
実は姉がいる。家を出た姉。その姉というのが、意外な人物。
心臓の病で母親をすでに亡くし、複雑な家庭環境で育った薄幸の少年。
てっきり家族や身の上だと思っていた。
邦画ラブストーリーの定番とは言え、終盤まさかの展開に…。
なにわ男子なんてメンバーの顔や名前どころか興味すら無かったが、道枝駿佑の事は覚えていそう。誠実さ溢れる好演。
言うまでもなく福本莉子がキュート。『思い、思われ、ふり、ふられ』『屍人荘の殺人』などに出ていたが、本作での好演こそ記憶に残りそう。
共にナチュラルかつ、複雑な内面さも。
松本穂香や萩原聖人らが脇を固める中、親友・泉役の古川琴音が非常に印象残る。特に終盤は大きな役割を受け持つ。
終盤のまさかの展開。
心臓の病で亡くなった母親の遺伝なのか、透も心臓が弱い。
ある時検査を受ける。それから間もなくして…。
透は急死する。
泉はショックを受ける。共通の読書の趣味があり、真織を大事にしてくれる大切な友達として好きでいたが、密かに泉自身も透の事を好きだったんじゃないかと滲ませる。
でも何よりの悩みは、真織にどう知らせるか。
日記を読み返せば、透と付き合っていた事を知る。そして透が亡くなった事も知るだろう。毎日毎日、その悲しみが繰り返される。
が、日記を読まなければ…。知らなければ…。
生前の透から頼みが。もし自分に何かあったら、日記やメールや写真などから自分の事を消して欲しい。
真織に辛い思いをさせない為に。
泉は透の姉に手伝って貰って、透の遺志通りにする。
開幕シーンと終盤の卒業シーン。実はこの時、透はすでに…。全てが消され、真織は覚えていない…いや、知らない。透と過ごした日々の事を。それを踏まえて改めて見ると、非常に胸打つ…。(これらを見たい為に二度見た)
真織と透の大切な一日一日を消していく。積み重ねてきた思い出を消していく。
本当にこれでいいのか…?
本当に、覚えていないのか…?
自分のした事に嗚咽する泉。
真織が描いた画。
本作のハイライトと言えよう。
若いキャストたちから瑞々しい魅力を引き出し、透明感ある映像美と繊細な演出。
正直若者向けラブストーリーは好んで見るジャンルではないが、近年見て記憶に残った同ジャンルはほとんど三木監督作。
たまに外れもあるけれど、この人が手掛けるラブストーリーは安心して見られる。
昨夏にジャンルの違う3本の監督作が公開されたが、やはり最も“らしい”。
真織の記憶は少しずつ回復傾向に。
透の事を思い出す日は来るのだろうか…。
今すぐは無理かもしれない。あるかもしれないし、無いかもしれない。
が、私の中に刻まれ、蓄積され、その存在が確かに残り、あり続ける。
タイトルとラストの台詞が素敵で、いつまでも心に残る。忘れない。
例え世界からこの恋が消えても、心は君を描くから。