「プロット、演出、演者…何処をとっても光が完璧な傑作」今夜、世界からこの恋が消えても たいよーさん。さんの映画レビュー(感想・評価)
プロット、演出、演者…何処をとっても光が完璧な傑作
今年ベストがまさかシネコン系から出てくるとは、油断してた…。とにかく感涙モノであるのだが、キャラクターの連帯と個々の造形がとにかく美しい。期待通り、いや、期待以上の傑作だった。
多くの感動作を描いてきた三木孝浩監督。脚本は同じく定評のある月川翔氏と新進気鋭の松本花奈氏が担当。この3人に期待しない訳ない!と思っていたが、その期待を軽々と超えてきた。2人の眩しい世界と秘密、それぞれが抱えた心の揺れを引き出しながら帰結していく様に、涙なしでは見られない。キラキラとしたショットは青春モノとしての強さを発揮しており、その繊細さを引き出すのは、三木孝浩監督の強みとも言える。実際、松本穂香さんの演技も新しさを感じたし、古川琴音さんは珍しい高校生役ながら彼女史上ベストアクトと言えるほど。単純に造られた感動ではなく、引き出しながら作り続け、形として魅せられる点に魅力を感じる。ここまで心が揺れたのも久しぶり。
一見すると良くある感涙モノと同じ様に映りそうだが、個々の造形が丁寧で深い。記憶を失ってしまう代わりに開く日記と、それを受け入れながら生きる真織。いくつもの人物を軸として変えながら、心模様と秘密を紐解いていく。主人公は道枝駿佑さん。「消えた初恋」や「金田一少年の事件簿(2022)」でも感じた柔らかさが三木監督の元でさらに活かされ、現代的な優しい男性像を見事に体現。主演に相応しい強さも兼ね備えていた。また、ヒロインとなる福本莉子さんがとにかく素晴らしい。何一つ覚えてないような表情、透明感のある声でストーリーを引っ張っていく。そこに古川琴音さん、松本穂香さんが乗ることで作品の魅力が更に磨かれていく。頼りがいのある2人がさらに脇を固め、彩りを加えていく。
美しいだけではない、生きた記録と記憶の物語として見事なマスターピースとなった。誰かの為に生きることがどれだけ美しいか。そして、それが刻まれるような人はきっと、記憶の中で生き続けていくのだろう。今夜、世界からこの恋が消えても。