「善と悪の魔法学院」スクール・フォー・グッド・アンド・イービル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
善と悪の魔法学院
魔法学校と言えば、有名なのはホグワーツ。
新しい魔法学校が開校。
“スクール・フォー・グッド・アンド・イービル”。
即ち、
“善と悪の魔法学院”。
おとぎ話に出てくるヒーローやヒロイン、悪役を育てる学校。
多くのおとぎ話のキャラもここを卒業。
今はその子供たちが、将来おとぎ話デビューをすべく学んでいる。
時たまこの学校に、人間の世界から入学してくる者がいる。
二人の少女。
一方は望んで、一方はアクシデントで、入学する事になって…。
魔法世界の学校を舞台にしたファンタジーというと、真っ先に思い浮かぶあの作品。
本作も児童書シリーズの映画化。時間も大作並みの2時間半。
Netflixから新たな“史上最強の魔法ファンタジー”を狙う…?
おとぎ話のキャラの育成学校という設定がユニーク。
アーサー王の息子やフック船長の子もいる。しわしわ老婆魔女の娘もいる。
THEファンタジー!
だけど、楽しいだけのファンタジーじゃない。
近年のディズニー作品のようなピリリとした風味あり。
ガヴァルドン村。
そこで暮らす二人の少女。
ソフィーは美しい金髪の美少女で、おとぎ話のヒロインに憧れている。
アガサは奇妙な薬を作る母のせいで周囲から「魔女の子」と呼ばれ、ひねくれ者。
共に日常にうんざり。退屈で最低な村にもうんざり。
そんな愚痴を言い合う二人は親友同士。
ある日二人は書店で不思議な印を見つける。店主から“善と悪の魔法学院”の存在を知らされる。
村を出たいソフィーは手紙を書き、入学を望む。“私は未来のヒロイン”。
それを止めるアガサ。
その時夜空が赤くなり、突然現れた巨大鳥に連れ去られ、“あちらの世界”へ。
夢にまで見たおとぎ話の世界に喜ぶソフィーだったが、思わぬ事が。
ソフィーが入れられたのは、悪役を育てる“悪の学部”。
一方のアガサはヒーロー/ヒロインを育てる“善の学部”へ…。
ヒロイン風が悪側へ、魔女風が善側へ。
これが本作のポイントだろう。
善悪の境界線。
他の作品でもそう。善の存在意義、悪の存在意義。
よく言われる悪役が居なければヒーローは成り立たない。
殊に近年は、善であった者が…とか、悪であった者が…とか、単純な勧善懲悪なんて稀。
それがあるのはおとぎ話の世界。それをおとぎ話の世界を舞台にした作品で突っ付くのだから風刺が効いている。
見てるとすぐ分かる。
ソフィーは見た目は美少女お姫様だが、自惚れ屋。自分の容姿や自分がヒロインである事を信じて疑わない。ワガママ、自己チュー。
アガサは見た目は暗い脇役魔女だが、芯がしっかりしている。気が強いが、その分ヘンな事や納得いかない事に対して自分の意見を言う。何より友達思い。
この学校自体も威厳を感じられない。
悪の学部の生徒たちは一応悪い子ちゃんが集まっているが、そこまで根っからの悪ではない。一方の善の学部の生徒たちはイケメンや美少女揃いだが、低能な連中ばかり。意地悪な性格もいる。
それぞれの学部長=先生も何だかいい加減な感じ。
学院長に至っては“善と悪の均衡”を何かと唱え、「間違いはない」と断言。
「間違いよ! 私を善の学部に代えて!」と、ソフィー。
「間違いよ! 私たちを元の村に帰して!」と、アガサ。
だが双方の訴えは聞き入れて貰えず、元の村以上の厄介者扱い&コケにされる最低な学校生活を送るハメに…。
魔法ファンタジー物は何か事件が起こらないと盛り上がらない。
そのキーとなるのは、ソフィー。
自分はヒロインで善の学部が相応しいと懲りずに言い続けるが、学部長からは受け入れを言い渡される。
私は善なのに…。ヒロインなのに…。プリンセスなのに…。
そんなソフィーの周囲に、時折姿を現す謎の人影…。
アガサも目撃。魔法学校だからそんなの日常茶飯事…ではない。
何か異様。学部長たちも激しく動揺。
何者…?
やがてそれは、ソフィーに接触。言葉巧みに言い寄る。
名は、ラファル。学院の創設者。学院長とは兄弟。
その昔自身の欲で対立し、悲劇にあった筈だが…。
目的は、善悪の均衡の崩壊。悪の力で世界を滅ぼす。
目を付けられたソフィー。彼女には“悪の救世主”となれる素質がある。
悪に誘われ、ソフィーは…。
魔法ファンタジーは世界観も見所。
美術や衣装は豪華絢爛。衣装は善悪の立場を表すもので、善はカラフル、悪は黒ベース。クライマックスではそれが“チェンジ”する一役にも買っている。
CGもふんだん。大作ファンタジーとしてたっぷりお金をかけている。
が、肝心の魔法そのものがさほど秀でたものではない。授業で習い、学部長から許可を与えられ、誰でも簡単に使えるようになるって…。
魔法クリーチャーも登場するが、インパクトには乏しい。
魔法授業も中身薄。学園生活(展開)も舞踏会や審判などあるものの、いまいち躍動感に欠ける。
話が散漫でもある。二人の少女の友情と対立の物語、三角関係ロマンス、善悪の価値観、事件(悪の脅威)…要素は充分だが、巧みに捌けているとは言い難い。
善の学部長にケリー・ワシントン、悪の学部長にシャーリズ・セロン、教授の一人にミシェル・ヨー、学院長にローレンス・フィッシュバーン、さらに“語り部”にケイト・ブランシェット…豪華な面々。
が、キャラの描き込みは浅い。シャーリズとヨーなんてキャスティングが勿体ないくらい雑な脇役。
監督ポール・フェイグは『ブライズメイズ』や女性版『ゴーストバスターズ』などコメディに手腕を発揮。ブラックユーモアのサスペンス『シンプル・フェイバー』も良かった。
本作は下ネタや過激な笑いは無く、ファミリーで楽しめる王道ファンタジー。
そこが評価の分かれ目。つまらなくはない。素直に楽しめる。が、無個性。何処で見たような二番煎じ感も否めない。
こういうファンタジーからは新たな逸材誕生がよくあるが、本作だって予感させる。
主演の二人。ソフィー役のソフィア・アン・カルーソとアガサ役のソフィア・ワイリー。
特に、ソフィー役の方のソフィア。(二人共“ソフィア”だからややこしい…)
見た目もキュートな美少女だが、物語の中盤で“悪”に転身。
可哀想なお姫様から一転、傲慢な性格や魅惑的な衣装の大胆イメチェン!
雰囲気もガラリと変わり、その変貌演じ分けはなかなか見事で、インパクト放つ。
善の時と悪の時とどちらが魅力的か問われたら、困っちゃうけど悪の時かな…。
お陰でアガサ役の方のソフィアは随分と印象薄くなっちゃったけど…。
ともあれ、今後の活躍にも期待。
悪ソフィーの誕生で、学院は最大の危機に。
善悪の均衡を壊す。
悪が攻撃し、善は防御する。それが鉄則。
が、悪に唆され、攻撃を仕掛けたのは善。
善が悪となり、悪が善となった瞬間。
悪の力、悪の支配に高笑いを上げるソフィーだったが、ラファルの真の目的を知って衝撃。
自分は利用されただけ。
救えるものは…?
いた。
これまた善悪の鉄則。悪は自身の野望に執着し、善は愛や友情を重んじる。
それこそが世界を変える力。
ソフィーとアガサ。
運命の人とは…?
キスの相手は…?
真の愛とは…?
ラストはやっぱりね…な安直な着地でもある。
だって一応本作は、少女二人の友情の物語。
学校でも善悪一つになり、ソフィーもアガサも元の村に戻れて、いつまでも仲良し、めでたしめでたし…だけど、何か続きを見込んだ終わり方。
原作もシリーズ化されてるから狙ってないと言ったら嘘になるけど、評判次第だね。
久し振りとも言える魔法とファンタジーの王道作品を無難に楽しめたけど、ちょっと煮え切らない点もあった。
ポッターくんの後継者になるには、魔法が及ばなかったようだ。
近大さん、ありがとうございます。
こんな見方があったのかと、納得することしきりてす。
自分の中にあった違和感というか、この作品に対する思いとか気付かされた気がします。