「「戦隊の可能性を止めない」という精神」暴太郎戦隊ドンブラザーズ THE MOVIE 新・初恋ヒーロー ヤッターさんの映画レビュー(感想・評価)
「戦隊の可能性を止めない」という精神
夏の東映ヒーロー映画では、既出の映画作品をモチーフとすることがしばしばあります。今回のドンブラザーズ、間違いなく『カメラを止めるな!』を意識して作られていることでしょう。
モノづくりの現場で様々な人間の思惑が絡み合い、面白おかしいトラブルが起こりつつも作品が完成する…。そんなカメ止めから、「なんとか作品を成立させねば!」というマトモな人(日暮監督的スタンスの人)を排除し、我とクセの強すぎるキャラクターたちだけで回した。そんな作品と思っています。
とりとめなく散文的なフリをしていながらも、毎話必ず一本芯の通ったストーリーを見せてくれるテレビシリーズ。ナイスなEDも相まって、見終わった後にさわやかな読後感をもたらしてくれるのですが、ことこの劇場版に関しては、なんというか、そういうものはほとんどありません。作り手たちによる全身全霊のおふざけを暴力的に浴びせられます。ちなみに本作ではあのEDは流れません。尺を考えてのことだったかもしれませんが、これによって劇場版がいい感じにまとまることなく、最後まで”ふざけ倒した”という感じになって、良かったと思います。
褒めてんのか、けなしてんのか、自分でもよくわからなくなってきましたが、令和に誕生した天才コメディエンヌ・志田こはく(鬼頭はるか)さんのことは誰しもが褒めるところでしょう。発声の仕方や表情筋の動かし方など、「こうすれば面白くなる」を完全に理解した上でやって見せているとしか思えません。そんな名人芸を存分に堪能できるという意味で、本作は一見の価値ありと言っても過言ではないでしょう。
あと、これまでの戦隊シリーズではお約束とされてきた「名乗り」をTVシリーズでは出さずに温存し、劇場版の見せ場としてどんとやって見せるというのも実に興味深かったです。戦隊定番となってしまっていた「合体ロボ」と「名乗り」を一大イベントとして再定義する。46作品続けてきても新しいアイデアはだせるということを、ご長寿シリーズが提示して見せることは、とても意義深いものだと思います。(だからこそ、ドンオニタイジンの戦いは見せて欲しかったなぁ)
私事ですが、この作品、私以外にお客さんがいない状況で鑑賞しました。子どもたちがいる中で観たらどんな反応だっただろう、そんなことが気になり、心残りです。