「ザッパをちゃんと知らなかったのに序盤ですっかり魅了されてしまう、変人でも奇人でもないザッパの作家性を膨大な映像からコラージュしてみせる魅力的なドキュメンタリー」ZAPPA よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ザッパをちゃんと知らなかったのに序盤ですっかり魅了されてしまう、変人でも奇人でもないザッパの作家性を膨大な映像からコラージュしてみせる魅力的なドキュメンタリー
まず最初に言わなければならないですが、これは物凄い傑作。ザッパを知ってる、知らないはザッパが遺した莫大な音源や映像の前には誤差でしかないのでこれは生きとし生けるものは全員観るべき。
1991年のプラハでの演奏から幕を開ける本作、少年時代は音楽ではなく化学に夢中だったこと、1950年代にゾンビ映画を撮っていたことに驚かされますが、その頃からザッパはザッパ。その後の奔放な創作活動を時系列で紹介しますが、ナラティブな表現はほとんどなく、我が目を疑うほどレアなアーカイブから切り取った本人の言動とザッパと共に過ごした人達のインタビューで構成されていて、そこに浮かび上がるザッパは変人奇人の類ではなく、自分の中に渾々と湧き起こる旋律を無我夢中で音にする真摯なアーティストであり、その音をただ自分は聴きたい、他にも聴きたい人がいるならそれもいいねという微笑む物凄くチャーミングな人。それでいて自由を侵害する権力には自分には毅然と戦う勇気も兼ね備えている人。映像と音を聴いているだけでどんどんザッパの存在に惹きつけられていくので128分の尺はあっという間に過ぎ去ります。何千時間もある膨大な映像からソリッドにザッパの魅力を要約してみせたアレックス・ウィンターの手腕に唸りました。
金言が無数に散りばめられていますが、個人的に一番印象的だったのは“今、問題なのはメディアや政治を支配している連中だ。普通の暮らしも支配する彼らはいいことを何もしない。普通の人になんて興味ないからだ”という言葉。この言葉を今の時代に聴いていること、ザッパが独立後のチェコに熱狂的に迎えられるくだり等が今まさにこの世界に起こっていることと絶妙にシンクロして終幕には膝が笑って立てないくらいに泣いていました。
スパークスとともに終始ふざけながら進行する『スパークス・ブラザーズ』とは全く違うタイプのドキュメンタリーですが、なぜか観終わった後の印象は物凄く似通っている気がしました。そして楽曲がアーティストの手を離れて世界を変えていく様に『シュガーマン 奇跡に愛された男』を連想しました。