「正統派の伝記映画を期待したらかなり驚かされる一作」エリザベス 女王陛下の微笑み yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
正統派の伝記映画を期待したらかなり驚かされる一作
奇しくも本作公開後に逝去したイギリスのエリザベス女王の、在位70周年を記念して制作された「初の長編ドキュメンタリー映画」という本作。2021年に亡くなったロジャー・ミッシェル監督の遺作ともなっており、『ノッティングヒルの恋人』(1999)や、最近では『ゴヤの名画と優しい泥棒』(2020)などの手堅い作品作りを踏まえた内容なのかと想像していました。予告編もいわゆる伝記映画を彷彿とさせるものだったし。
が、本作は、そんな観客の想像を遥かに超えた、ミッシェル監督渾身の、エリザベス女王をモチーフにした仰天のコラージュ映像作品に仕上がっていました。確かに貴重な映像も含まれているんだろうと思うけど、突然挿入される「スタートレック」の映像とか、何でここでこの映像を使う!?と思ってしまうような映像のごった煮ぶり。
冒頭5分程度は、面白いつかみだなー、と思っていたけど、まさかその「つかみ」が90分続くことになろうとは。本作でエリザベス女王の人生を辿りたい、と正統派の伝記映画やドキュメンタリー映画を期待していた方は、多かれ少なかれ驚くことになるはずです。実在の女王の映画なのでネタバレも何もあったものではないのですが、少なくとも「普通の伝記ではない」という程度は知っておくと、鑑賞時の戸惑いが和らぐと思います。
映画は幾つかのパートに分かれていますが、各パートの序盤にかかる音楽の選曲はさすがなので、演出に入り込めなくてもこの点は楽しめるはず。
決してエリザベス女王やイギリス王室寄りの視点で貫かれているわけではなく、例えば第二次世界大戦中に即位前の女王が陸軍に入隊したことよりも、ドレスデン爆撃という一種の汚点を大きく取り上げたり、王室スキャンダルに触れるなど、批判的視点や皮肉もかなり効かせています。
エリザベス女王とミッシェル監督には思う存分本作について色々語って頂きたかったけど、今となってはそれも叶わないことが残念です!