劇場公開日 2023年4月7日

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「キリスト最後の5日間」ザ・ホエール Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0キリスト最後の5日間

2023年10月25日
iPhoneアプリから投稿

チャーリーは巨漢だが決して特別な存在ではなく、私たちと同じく、善人でも悪人でもないグラデーションの中にいる。
“一見普通ではない”人物の内面を深く掘り下げ、一人称で語ること。それは異質なものに背を向け排除しようとする不寛容な現代に、とても重要な問いかけである。

イエス・キリストは自らの無惨な姿を晒し、原罪を一身に引き受けて十字架に掛けられた。身動きできなくなったチャーリーそのもの。これはキリストの最後の5日間を描いた物語。

うまく昇天できないシーンから始まり、カラスを養い、七つの大罪を引き受け、ダンによるジャッジがくだり、最後の晩餐、そしてついに昇天する。

そうしたキリストのモチーフを軸にしながら、『白鯨』を見事に呼応させ、現代社会にメスを入れる。

復讐に取り憑かれたエイハブ、攻撃を受け続ける鯨。そして悲しみを先送りにする語り手=イシュメール。

制御できない依存と怒り、他者の視線と自分から攻撃され、それを先送りにしながら少しずつ死んでゆく精神。それが我々の原罪性であり、我々の社会構造そのものが内包する地獄である。

あの海辺で正直に生きることを決意したチャーリー。怒りと喪失感で鯨(精神)を殺すことが人生ではないと悟ったエリーの姿を見て、思い残すことのなくなったチャーリーは昇天した。

Raspberry