劇場公開日 2023年4月7日

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「溺れる鯨」ザ・ホエール ヨークさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5溺れる鯨

2023年4月12日
iPhoneアプリから投稿

強烈。そして圧巻。
演技はもちろんだけれども、皆見た目にインパクトのあるブレンダン・フレイザーについてばかり賞賛するのみで、この映画の本質的な部分に触れられることが少ないのは残念。

裏切った後悔と自責の念から自らを罰するように肥大化したモンスターのような主人公の苦悩や諦観、僅かな希望。
「白鯨」をモチーフに描かれる宗教的欺瞞からの自己解放。
現代病と言われ幾星霜、依存症という言葉で言い表せないくらいに何かに依存する人たち。

それらが絶妙に絡まりあって織りなす人間ドラマ。
アパートの室内のみで展開される様子は演劇のようでもあるし、短編小説を読んでいるような錯覚にも陥った。

そして明確に死へと向かう物語が、どこかサスペンスのような緊張感を保ちながら進行することで単調な会話劇に終始してしまわないよう効果的に機能している。

人と人は簡単に分かり合えない。許し合えないし認め合えない。ドラマのようなハッピーエンドは現実世界でそう多くない。むしろ非常なことの方が多い。
この映画はそんなリアリズムを踏襲しながら、死の直前に魂と魂の相克がほんの少しの希望を見せてくれる。

その一瞬のシーンが圧倒的に美しい。

溺れる鯨が死の間際に何を想ったのか。何を見たのか。

ほんとうに良い映画だった。

ヨーク