劇場公開日 2023年4月7日

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「悪意と涙の感動の狂気の組み合わせ!」ザ・ホエール 屠殺100%さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0悪意と涙の感動の狂気の組み合わせ!

2023年4月9日
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素直に泣いていいのか?なんか嫌味を感じてしまう内容である。

太った人を小馬鹿にした差別的なタイトル、『ザ・ホエール』。しかし、それは、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』のクジラのことだと、もっともらしく意味深な感じに見せようとするところの嫌らしさ。ゲイの人に対する気持ち悪さをわざと誘うかのようなオープニング。太った人やゲイの人を冷やかしバカにするという悪ガキじみた下品な感性をわざと刺激するかのような真性悪の仕掛けがところどころに散りばめられている。その際たるものは、異様な特殊メイク、そして、まさしく精神を病んで太ってしまったブレンダン・フレイザーという俳優そのものである。

結婚して子供をつくり、かつゲイであるが故に男性を愛してしまい、女房子供を見捨てた極悪人。そして、愛していた男性が自死し、ショックで精神を病み過食症で極度の肥満になってしまう。あるいは、人生を純粋に正直に生きようとしただけであり、憐れな人ともとれる。

彼はただの太ったゲイの極悪人、自業自得であり、差別的にみることを正当化できる人もいるかもしれない。しかし、一方で、人様のプライベートな生き方にいいだの悪いだの口だしをして、いい悪いなどを判断することがいかに醜悪なことであるか、彼の憐れな生活をこれでもかと見せつけられるたびに自制を促されるのだ。

人間とは、不完全なものであり、救いが必要であるとキリスト教的な慈悲の目でみることもできるが、キリスト教の欺瞞的な教えに対するチラチラとした批判がある。キリスト教とはさも矛盾に満ちた宗教でありながら、そのことを十分に理解していた主人公が最後はなんと文字通り天に召されるのである。なんとも人を混乱させ、クジラが空を飛ぶ!と見たまんまを言葉にすれば、それは人を小馬鹿にしたブラックな笑いを誘うシーンでもあるが、自制心をもってみれば彼は神のもとへいったのであり感動的結末でもあるのだ。ダーレン・アロノフスキーは悪意に満ちたものと、感動を誘うものを無理やり両立させようとする本当におかしな趣味の監督だ。なんだこのセンスは!といつも首をかしげたくなるが、面白いのでつい気になってしまう。

非常に憐れであり、かつ下品な感性を刺激し、小馬鹿にされうる存在、ザ・ホエール。矛盾にみちた存在の映画のエンドロールの終わりに、ほわ〜んというクジラの鳴き声をインサートしてくるところが、悪意に満ちあふれていると思ったが、笑えてしまうという自らの愚かさを反省させられるという、キリスト教的にいえば、告解を誘発する内容である。

屠殺100%