アラビアンナイト 三千年の願い : 特集
【願いがない女性学者 VS 願いを言ってほしい魔人】
からの、まさかの泣ける恋愛へ…「マッドマックス」
監督の注目最新作は、いい意味で“全然予想と違う”!
アカデミー賞6部門受賞「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を観て、極度の興奮に襲われた観客は多いだろう。
同作の監督ジョージ・ミラーが久々に新作を放つ! タイトルは「アラビアンナイト 三千年の願い」(2月23日公開)。物語や映像は芸術的かつ耽美的で、どこか奇妙で切なくて……「マッドマックス」とはいい意味で“ぜんっぜん違う”作品である。
しかしながら、実際に観て感じたのは強い満足度と、「いろんな人に観てほしい」という純粋なレコメンドの気持ち。なぜなら、物語がとてもユニークで、映画.comユーザーの皆様はきっと気に入るはずだからだ。
この特集では、そんな「アラビアンナイト 三千年の願い」を絶対に観てほしい理由を、作品にちなんで“3つの願い”と題してお伝えしていく。少しでも興味がわいたら、ぜひご鑑賞を!
【絶対に観てほしい“3つの願い”】その①
「マッドマックス」とは“いい意味で全然違う”作品!
まず願い(観てほしい理由)の1つ目は、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のスタッフが集っていて、それでいてまったく異なるユニークな作品として仕上がっている点だ。
☆「マッドマックス 怒りのデス・ロード」スタッフが再結集!
監督は、世界中から新作が待望されていた鬼才ジョージ・ミラー。製作はミラー監督をはじめ「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の面々が再結集しており、製作のダグ・ミッチェル、撮影監督のジョン・シール、音楽のトム・ホルケンボルフが名を連ねている。
これはつまり、最高密度の映画体験が約束された布陣! 一方で、これだけのメンツが再結集することは奇跡的でもある。今作での機会を逃すと、彼らの新作は金輪際拝めないかもしれない……だからこそ「アラビアンナイト 三千年の願い」は価値があるのだ。
☆でも…かつてない映像体験を約束! アカデミー賞候補作をさしおいても観るべき1本!
一瞬で目を奪われるような美が中心にある今作。知性と探究心がオアシスの底からこんこんと湧き出る、そんな映画でもあるのだ。
「怒りのデス・ロード」がむき出しの狂気ならば、今作は洗練された理性が特徴。チャーミングで洒脱な会話劇もクセになる。そして、ミラー監督らしい“かつてない映像体験”ももちろん全開で、美しいガラス瓶が魔法によって溶け、まったく別の物質へと様変わりする過程などが驚がくのVFXで表現されている。必見だ。
2月から3月はアカデミー賞関連の作品が多く公開されるが、それらをさしおいてでも観るべき価値が大いにある“超良作”だと、自信をもって断言しよう。
【絶対に観てほしい“3つの願い”】その②
学者と魔人、究極の“ほこたて対決”が面白すぎる
次なる願いは、物語の興味深さである。何でも貫く“矛”と、どんな攻撃も防ぐ“盾”の対決=“ほこたて対決”のような展開が、映画を何倍も面白くしているのだ。
☆[ストーリー]願いが一個もない女性と、
絶対に願いを言ってほしい魔人が、出会った――
古今東西の物語や神話を研究する学者アリシア(ティルダ・スウィントン)は、美しいガラスの小瓶から飛び出した巨大な魔人(イドリス・エルバ)と出会う。
魔人は瓶から出してくれたお礼に「3つの願い」をかなえると申し出る。しかし物語の専門家であるアリシアは、“「願い事」を描いた物語にハッピーエンドがない”ことを知っており、魔人の誘いを「願いごとはひとつもないの」と断る。
魔人は困った。3つの願いをかなえれば、自分は瓶から解放されるからだ。もういいかげん解放されたい。絶対に願いを言ってほしい……ここに“願いがひとつもない女性”と、“願いをかなえたい魔人”の対決が始まった。
魔人は彼女の考えを変えさせようと、3000年におよぶ自らの物語を語り出す。さてどうなる? 紆余曲折を経てアリシアの口をついて出た1つ目の願いは、なんと「私を愛して」だった……。
彼女の2つ目、3つ目の願いとは? さらに予測不可能の事態に発展し、我々観客の期待を大きく超えるスペクタクルかつ切ない展開へ突入していく。
☆注目!主演は“天使”ティルダ・スウィントン…“普通の女性”役がもはや斬新!
物語を体現するキャスト陣も魅惑的。主演は、宗教画的な“美”をその身にまとうティルダ・スウィントン。日本でも人気が高く、「コンスタンティン」などでみせた神々しさから、親しみと畏怖をこめて“天使”や“ティルダ様”などと呼ばれている。
そんな彼女が、今作では久々(?)に“普通の女性”を演じている点が、もはや斬新で非常に面白い。物語論の学者として仕事は順調、マイペースな人生を謳歌している大人の女性という役どころで、どのような演技を披露しているか……お楽しみに!
さらに共演は、「ワイルド・スピード スーパーコンボ」「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」などアクション大作で知られるイドリス・エルバ。今作では持ち前の豪快さは封印し、数千年にわたって不遇をかこってきた“魔人”役をシニカルに、ユーモラスに演じている。
――スウィントンが縦糸で、エルバが横糸。2人が織りなす「アラビアンナイト 三千年の願い」という名のタペストリーは、その結末に静かな、しかし激しい波乱が待ち受けている。ネタバレになるため後半の展開は詳らかにできないが……あなたはどう受け止めるだろうか?
【絶対に観てほしい“3つの願い”】その③
まさかの泣けるラブストーリー…編集部も超絶偏愛中!
最後の願いだ。実際に観て特に心に深く刺さった“泣けるラブストーリー”について詳述して、特集を締めくくろう。映画.com編集部のレビューをお届けする。
●人と魔人の愛 しかしそれは、私たちの“痛み”を吸い上げる
この映画は、運命に抗う無意味さを理解しつつ、それでも運命から逸脱しようとする人々の愛の物語である。2022年の年末に鑑賞したが、同年を締めくくる映画体験として、これ以上はないと確信できるほど素晴らしい作品だった。
「私を愛して」。学者の願いを、魔人はまるで優しく口付けするみたいにかなえてあげる。私たちが普段知るものとは違った“人と魔人の愛”。ところが魔人ははるか昔に悲恋を経験しており、一方で学者にもまたパートナーとの暗い思い出があることが示唆される。その瞬間、奇妙に思えた彼女らの関係性は、よく似た傷を抱える者たちの物語に姿を変えた。
「希望は怪物だ 私をもてあそぶ」「どうして誰かのすべてを愛することが間違いなんだ?」「愛は蒸気のよう それとも夢……」
魔人がしてくれることは、学者が、これまで社会のなかで生き感じてきた切実な痛み――我々観客も同様に感じたことのある痛みだ――を、永遠に吸い上げているように見えた。温かな感情が身体の底からこみ上げ、涙となって頬を伝った。
そしてチャーミングな会話劇の末に訪れる結末は、大方の予想通りにはならない。胸を締めつけ、しかし同時に、今を生きる私たちに勇気を与えてくれたのだ。
この感動は、なかなか出合えるものではない稀有な感情だと思う。だからこそ、あらゆる物事を調整してでも、「アラビアンナイト 三千年の願い」を観てほしい、そう願ってやまない。