劇場公開日 2024年12月6日

「『ワンダー 君は太陽』と併せて観たい一作」ホワイトバード はじまりのワンダー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0『ワンダー 君は太陽』と併せて観たい一作

2024年12月30日
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鑑賞方法:映画館

本作が『ワンダー 君は太陽』(2017)のスピンオフ的な作品ということに鑑賞後に気が付いた観客による感想です。

冒頭でジュリアン(オーランド・シュワート)と彼の祖母サラ(アリエラ・グレイザー)が対話する場面があり、ここは『ワンダー』を観ていないと状況の把握が難しいんだけど、本作は若き頃のサラがいかに過酷な時代を生きたかの描写に重点を置いているので、ここで話についていけなくなる、ということは決してありません。

むしろ『ワンダー』を観ていなくても、ジュリアンの心の揺れを目線と間だけで描いてしまう演出の妙は、すぐに観客を作品世界の入り口に立たせてくれます。

サラの青春時代はナチスドイツ占領下のフランスでの苦しい経験に塗りつぶされていることが、もろもろの描写から痛いほど伝わってきます。ユダヤ系である彼女や彼女の家族、そして近しい人々がナチスによる迫害によって追い詰められていく様は、近作でも『ジョジョ・ラビット』(2019)などに類似した描写はあるのはあるのですが、それでもまだ幼い少女の目線から見た圧倒的な抑圧と暴力には身を切られるようなつらさがあります。

単に残酷な場面を見せるのではなく、なじみの店から締め出される(それでも心ある人はギリギリまで彼女に配慮を示すところがなお痛々しい)、級友が突如ユダヤ系であることを理由に見下してくる、といった形で現れる残酷さ。このサラの体験を単なる思い出話ではなく、自分が何をすべきかというメッセージと了解した時のジュリアンの表情も素晴らしいです。

yui