「全盛期の彼らを間近で味わえるタイムマシーン」ザ・ビートルズ Get Back:ルーフトップ・コンサート moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)
全盛期の彼らを間近で味わえるタイムマシーン
まず、この映画のみならず、Disneyプラスのドキュメンタリーも込みで全体の感想を言いたい。ビートルズのわずか10年足らずのキャリアの中で、初期ではなく、アーティストとして脂の乗り切った後期の彼らををこれだけ、クリアな映像と音で近くで見れることがもう奇跡だと思う。ストーンズ、ビーチ・ボーイズ、ツェッペリン等もこれだけの長時間のアルバム制作工程の密着ドキュメントは存在しない。(ゴダールによるストーンズの「悪魔を憐れむ歌」のレコーディングの一部を捉えた「ワンプラスワン」はあるにせよ)
リアルタイムで体験したファンであっても、どれだけたくさんの文献に目を通したビートルマニアであっても、映画や短いインタビュー映像を除いて、2022年の今まで、これだけの長時間、映像コンテンツでリアルタイムのビートルズの言動を実際に見たことがある人は誰もいなかったはずである。(念のため言及するが、「ビートルズアンソロジー」は解散後の各メンバーへのインタビューによる当時の回顧録が主であって、リアルタイムの彼らの言動を捉えたものではない。)
今まではプライベートの4人の雰囲気やバンドの関係性はファンが想像するしかなかった。というか、それが普通なのだが、それを実際に真横でレコーディング中に彼らが会話してる様子を延々と見れるのである。間違いなくこの作品以前と以後でビートルズのイメージが変わる歴史的な作品である。版権等の問題があったのだろうが、それをここまで長い間ほったらかしにしていたのが信じられない。
レットイットビーというオリジナルの映画のリマスターではなく、ピータージャクソンが最新のテクノロジーを駆使し、新たに8時間のドキュメンタリーとしてくれたことの意義は大きい。そして、その一番おいしい所をIMAXの最高の音質で体感出来た事に感謝。
ここからは映画のパートの内容について。当時のレコーディング、パフォーマンスを見て分かるのは、よく語られる解散前の重苦しい空気は周りが勝手に作り上げたドラマだということ。いい意味で本人達はもっと「軽い」。メンバー同士でふざけてる時間が多いのだ。ドキュメンタリーの前半で噴出したバンド内の問題はありつつも、基本的にバンドのムードは軽やかでポジティブな雰囲気に溢れている。
また、映画のラストで、実は少し同日のスタジオレコーディングの仕上げ?の部分も見れるのだが、その軽いノリのままどんどんレコーディングして、two of us と let it be等がそのライブと同じ日に完成する(!)。もちろん楽曲、歌詞はその日までにある程度出来ていたが、アレンジはその場でテイクを重ねて決めていく。「これぐらいでいいかな?もうそろそろ帰ろうか」みたいなゆるさで。アレンジメントの細部まで心血を注いだ入魂の楽曲、みたいな意気込みはない。逆にそのだらだらしながらの状態で、50年後もクラシックになっている楽曲群がどんどん出来上がっていく風景がバケモノ。
特にポール・マッカートニーは作曲家としてクリエイティビティのピークにあったのだろう。煮詰まる感じが全くない。全盛期のスティービー・ワンダーとかプリンスもこんな感じだったんだろうか?ライブももちろん素晴らしい(ライブの音質は聴いた事ないぐらい良い)のだが、終始その余裕っぷりが印象的だった。