「こういうのでいいんだよ、こういうので」ブルービートル 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
こういうのでいいんだよ、こういうので
宇宙人のテクノロジーによる共生型スーツ“スカラベ”を手にしたメキシコ人の青年ハイメ・レイエスが、愛する家族を守る為スーパーヒーロー“ブルー・ビートル”となって立ち上がる。
打ち切り決定後のDCEU作品とあってか、日本では劇場未公開となってしまった不遇な作品。しかし、本国では初登場1位(事前予想は下回ったが)、批評サイトスコアDCEU作品中最高評価と、まずまずの評判だった。
率直な意見としては、展開や設定はどれも教科書的だが、だからこそヒーロー誕生譚としての王道を行く出来の良い作品だったと思う。打ち切り決定後だからこそ余計にそう感じてしまうのだろうが、「どうしてコレをもっと早くやっておかなかったんだ!」と言いたくなってしまう。軽快でポップな万人受けする作風は、ダークで重厚感溢れる世界観を意識してスタートしたDCEUとは真逆の作風だが、それでも先行して成功を収めていたMCUを意識して展開するならば、初期段階で本作や『ワンダーウーマン』のような作品の適時投入は必須だったのではないかと思う。
宇宙人のテクノロジーによる会話プログラム付きのハイスペックなパワースーツと昆虫を意識したビジュアル、青年とヒロインのロマンスといった要素は、MCUの『アイアンマン』と『スパイダーマン』を足して2で割ったような印象を受ける。だからこそ、ある程度の面白さは担保されていると言えるし、実際本作はシリーズのスタートとしてまずまずの出来だった。先行して公開された『ザ・フラッシュ』と同じく、「DCEUの今後を左右する作品」という触れ込みだったが、打ち切り決定は残念。
しかし、話によると新体制後も本シリーズは続く可能性があるらしく、まだ希望は残されているか?あちらが過去のDCEU作品群と密接な関わりを持っているのに対し、本作はヒーロー達の名前こそ登場したが、キャスト陣の合流は無く、ストーリーとしても新体制後のDC作品に問題無く合流出来るので、出来れば実現してほしいところ。
肝心のストーリーについてだが、特に前半30分程で、貧富の差が拡大した近未来のメキシコの世界観、ハイメをはじめとしたレイエス家のメンバーの基本設定、ハイメとスカラベの融合によるブルー・ビートル誕生をテンポ良く展開する様が抜群だった。
大学を卒業して故郷に帰ってきたハイメが、在学中に家族が過酷な日々を乗り越えた事、それでも跳ね上がった家賃を払い切れずにいずれ家を失う事が提示される序盤の掴みが上手い。妹のミラグロや叔父のルディといったクセの強いメンバーも早速グイグイと絡んでくる。思わず「やめてくれ」と言いたくなってしまうような過剰な家族愛描写には失笑してしまうが。
妹の紹介したバイト先が偶然にも「コード社」CEOのビクトリア邸というのは出来過ぎだが、ヒロインのジェニーとの出会いや仕事の斡旋を約束してハイメを社に招く展開は上手い。これによって、ハイメがスカラベを手にするまでの展開がスムーズに進むし、ジェニーの「箱を開けるな」という言いつけを破りたがるレイエス家の人間の野次馬根性も提示している。
個人的には、叔父のルディがお気に入り。陰謀論者や発明家といった面白い要素を兼ね備えているのは、ステレオタイプながら魅力的だった。発明が絶妙にダサい点や、それでも何だかんだ役立つ点も面白い。
父アルベルトの「間が悪いと吉報も凶報になる」「今は旅の途中だ」「物事には終わりが来る。だが家族は永遠だ」「人には使命がある。お前は見つけてないだけ」といった印象的な台詞の数々が良かった。作中1番、家族愛というテーマを実践していた人物と言える。
特に、せっかく大学を卒業して得た学士という資格を上手く活かせず、家族を救えない事にもどかしさを覚えるハイメを励ました際の「今は旅の途中だ」という台詞は、個人的な実生活と重なってグッと来た。
個性派揃いのレイエス家でも最も強烈なのは、祖母のナナだろう。序盤のいかにもな好々爺描写とは打って変わって、ジェニーの父テッドの遺したマシンガンを意気揚々と扱う姿や、かつて革命活動に熱心だったと思わせる知将っぷりや交戦的な素顔は、アクの強いルディすら凌ぐから笑える。
惜しいのは、前半の展開に対して、後半は少々盛り上がりに欠ける印象だった事。特に、最も肝心な要素であるはずの「何故、ハイメがスカラベに選ばれたのか?」は、終ぞ曖昧なまま。スーツのパワーも、中盤でイグナシオをオートマチック戦闘機能で圧倒した時とは違い、ハイメの意思と融合した事でイマイチ強さが判然としなくなってしまう(イグナシオもスカラベの機能をダウンロードしてパワーアップしたとは言え)のは勿体無いと思った。
要塞での雑魚戦やイグナシオ戦は、家族への思いを強さに変えるハイメの設定を活かすには絶好の機会だったにも関わらず、あまり効果的に活かせていなかった印象(それは恐らく、レイエス家に個性的なメンバーが多く、互いに食い合ってしまったから)を持ってしまうのは残念。
全体的には、変に奇を衒わず王道まっしぐらなストーリーを貫いた作風には好感が持てたし、ブルー・ビートルのビジュアルも少々グロテスクな融合した背中含め好みだった。
エピローグで示されるテッド・コードの生存という未解決の要素、登場人物の更なる掘り下げ等、まだまだ膨らませられる要素を数多く抱えているだけに、今後の展開が実現する事を願うばかりだ。