「罪のないものだけが石を投げよ」カラーパープル 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
罪のないものだけが石を投げよ
冒頭から見ているのが辛い映画でした。子を産んだらすかさず取り上げられるって、本当にそんな時代があったのか。金で取引されて、怒鳴られ殴られ働き通し。力で勝る男の天下で、女性には過酷な時代。恐らく、時代を遡ればもっと過酷だったのでしょう。吉川英治氏の三国志では、劉備に自分の女房の肉を食わせるという「美談」があったのだから(決して吉川氏の創作ではなく、注釈入りで紹介されたエピソードでしたが)。兎に角、古くから続く残酷歴史の一部と思えば、そこまでは驚かなかったのですが。
そして、殴り返して解決? 本当は当然の姿である家族団らんエンドって、ハッピーに見えて「当たり前の姿じゃないか」と思わなくもない。それほど過酷な目にあったということですが、それに対して怒りを覚えなくもない。
では、加害者側である旦那(?)の方はどうか。実はあれらの抑圧的な態度は、親や周囲の環境から受け継いだ当たり前の振る舞いだったのかと思います。そんな時代だからこそ、そうして嫁にも勝ち気で生きてきた。自分が家を仕切っているのだ、云うことを聞かなければ躾けで正す、当然だろう? と、悪びれもなく云ったでしょう。本当に悪いことをしていると思ってないのでしょう。で、女房から殴り返されて思うことは「なんで?」だったのでは。店から追い出されて泥だらけになって反省したように見えましたが、彼もまた、時代に躾けられて弱っただけではないか。本当に自分が悪だと理解できたかどうか、判ったものではない。
何が気になると云って、この映画を見ている自分自身が本当は悪人じゃないかと、そう振り返るべきなのかと悩んでしまったこと。誰かに接する上で、それが何も被害を及ぼしてないかどうか。この映画の彼のように、時代に乗り遅れた悪人ではないだろうか、等々。いろいろ悩まされる映画ではありました。
スピルバーグ監督の前作は見ていないです。ミュージカルにしたということで、躍動感溢れる映画でした。やはり黒人で揃えたミュージカルは凄いですね。他にダイアナ・ロスやマイケル・ジャクソンの出演した、黒人版オズの魔法使い「THE WIZ」がお気に入りです。他、「ブルース・ブラザーズ」のジェームズ・ブラウンが歌い黒人達が踊るシーンなんかも凄い。
ただし黒人音楽、ブラック・ミュージックから発祥したブルースやジャズなんかも奴隷制度や人種差別の苦難の歴史と共に在ったことを考えると、世の中、辛いことが無いといけないのかと、なんとも悩ましく思えてならないです。
もう一度云いますが、スピルバーグ監督の前作は観ていないです。何故なら、良い映画ですが、観れば辛い想いをすることが、観る前から判っていたような気がするから。