「アリス・イン・ビクトリーランド。 あなたはシンデレラを羨む?それとも蔑む?」ドント・ウォーリー・ダーリン たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
アリス・イン・ビクトリーランド。 あなたはシンデレラを羨む?それとも蔑む?
周囲を砂漠に囲まれたユートピアのような町を舞台に、専業主婦アリスを襲う不可解な出来事と恐怖が描かれたフェミニズム・サイコ・スリラー。
監督は『TIME/タイム』(出演)や『her/世界でひとつの彼女』(出演)の、女優としても活躍するオリヴィア・ワイルド。またオリヴィアは、アリスの友人バニーを演じている。
幸福な結婚生活を送る専業主婦、アリス・チェンバースを演じるのは『ミッドサマー』や「MCU」シリーズのフローレンス・ピュー。
仕事に勤しむアリスの夫、ジャック・チェンバースを演じるのは『ダンケルク』『エターナルズ』のハリー・スタイルズ。
「ビクトリー計画」の責任者である町の最高権力者、フランクを演じるのは『スター・トレック』シリーズや『ワンダーウーマン』シリーズのクリス・パイン。
フローレンス・ピューとハリー・スタイルズが主演という情報のみを頭に入れて鑑賞。
あらすじはおろかジャンルすら知らない状態だったので、一体どういう物語になるのかワクワクしながら映画を観ることができました♪やっぱりこのくらい何も知らない方が映画鑑賞は楽しめるね。
内容としては『マトリックス』(1999)と『ブラック・スワン』(2010)を足して2で割ったような感じ。次から次へと起こる怪奇現象にはハラハラビクビクするものの、まぁぶっちゃけ既視感は否めない。
というか、主人公の名前がアリスであることが判明した時点で「あ、これそういう映画なのね…」と大体の予想はついてしまう訳で。割と予想通りに物語が進行していってしまい、そこにはちょっとがっかり。
”本部”のある小山からなんとなく『ホーリー・マウンテン』(1973)味を感じていたのだが、最後まで観てみるとやっぱりそういう事でした。また、アリスが攫われる時に靴が片方落ちるのは「オズの魔法使い」や「シンデレラ」を意識しているのだろう。
なんと言うか、スイングの効いた映画ではあるのだが先行作品からの引用が素直すぎるきらいがある気がする。まぁやりたいことはわかるんだけどね。ちょっとやり方が露骨だよね😅
いっそのこと、実は砂漠には人喰いミミズが生息していた!みたいなモンスター映画だったら良かったのに…、なんて勝手な事を言ってみる。
テーマはど直球、火の玉ストレートなウーマン・リヴ。
女性解放をなんの衒いもなく描いており、そこも大変素直。…素直ではあるのだが、あまりにも直接的すぎて少々えぐみを感じる。
ちょっと男の描き方に悪意が込められ過ぎてやしませんか?男はみんなクズ!全員死ね!!みたいなね。
ハリー・スタイルズもクリス・パインもあのお医者さんも、メインどころの男キャラは皆殺しですからね💦もう少しオブラートに包むというか男側に歩み寄るというか、そういう姿勢って大事じゃないっすかね。過度に強硬な態度は他方からの反感を買い、さらなる対立と隔絶を生みますよ。
近年、益々の盛り上がりを見せるフェミニズム運動。2023年のノーベル賞も、平和賞のナルゲス・モハンマディ氏や経済学賞のクラウディア・ゴールデン教授など、女性の地位向上に尽す人物への受賞が目立った。
映画界ももちろんその流れに沿っており、さまざまな角度からフェミニズムを扱った名作が続々と生み出され続けております。
本作もそういう流れのなかにある作品なのは言うまでもないが、「女性が皆んなおんなじ方向を向いている訳ではない」ということを強く提示している点にはなかなか独自性がある。
この〈ビクトリー〉という町では、女性は皆シンデレラのような生活を送る。綺麗に着飾ってお家を綺麗にし、王子様からの愛を一身に受けるのである。これは50's〜60'sに生み出された〈理想的な女性像〉そのもの。
第二次世界大戦中、男たちは戦場に駆り出されていたのでその代わりに女性が工場での労働や農業など、国内の生産を担っていた。40年代前半は女性こそが主な労働力だったのです。
しかし、終戦により男たちが帰ってくると、女たちはその席を開け渡さなくてはならなくなります。その時に用いられたのが「男は仕事、女は家庭」という価値観だった。「男は仕事をするものなんだから、女性の皆さんはそんな男性をしっかりと支えるため、家事を頑張りましょうね〜」という価値観が植え付けられ、女性たちも「あらそうなの?それならまぁしょうがないわねぇ…」と労働者の地位を明け渡した訳です。
「マイホーム、マイカー、広い庭、オーディオセット、白い大型犬、可愛い子どもたち」みたいな、”にこにこ幸せカタログ”が生まれたのもこの時代。この未だ根強く続く価値観に変革をもたらすことこそ、現フェミニズム運動の目的なのでしょう。
しかし、当たり前だが全ての女性が意識の革新を望んでいる訳ではない。中には当然、社会に出て働くよりも家庭に入っている方が幸せだと感じる人もいることだろう。そういう人からしてみれば、フェミニストは疎ましい存在に他ならない。
隣人のバニーは望んでこの世界で暮らしている訳だし、創設者フランクの背後にいる黒幕は彼の妻シェリー。
フェミニズムを阻む最大の要因は、実は旧態依然を望む女性なのではないか、と問いかけているところに、本作最大の旨みが詰まっているように思う。女性が皆ワン・ダイレクションを向いている訳ではないのです。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)や『ブラック・ウィドウ』(2021)など、フローレンス・ピューの出演作品には女性映画が多いような気がする。
彼女も体型のことをとやかく言ってくるボディ・シェイマーたちと戦うタフな女性な訳だし、やはりフェミニズム映画とは相性が良いのだろう。
フローレンス・ピューの出演作はいくつか鑑賞してきたが、その中でも今回がベストアクト!!とても素晴らしい👍✨
キュートなファッションに体当たりなラブシーン、カーチェイス、全力ダッシュ、さらにはサランラップ変顔まで、とにかく縦横無尽の大活躍!
本作はフローレンス・ピューの魅力を余すところなく伝えている。彼女のことを知らない観客も、これをみれば一発でファンになってしまう事でしょう!
男の身勝手に付き合わされる女性たち。本作のSF的設定はそのメタファーである。
まあそれは良いとして…。気になったのは現実世界でもフローレンス・ピューはフローレンス・ピューだし、ハリー・スタイルズはハリー・スタイルズだったこと。
んだよ、お前ら現実世界でも美男美女じゃん。現実では醜男醜女だけど、仮想世界では超イケイケっていう設定にするべきじゃないの?ハリー・スタイルズの顔面で「冴えない男です…」みたいに振る舞われても説得力がないわっ💢
不穏な雰囲気はなかなか緊張感があるものの、イデオロギーが前面に出過ぎていたせいで映画のバランスが崩れていたような気がする。設定的には好みなのだが、イマイチ乗れなかったというのが正直な感想である。
実は本作、映画制作の裏側の方が映画本編よりもドロドロしている。
当初ジャックを演じるのはシャイア・ラブーフの予定だったが、私生活のゴタゴタで結局この話は無かったことに。この件に関して、オリヴィア・ワイルドは「あいつは素行に問題があるから私が解雇しました」と主張しているのだが、当のシャイア・ラブーフは「いやいや。俺が自ら降りたんだよ。証拠もあるんだけど!😡」とそれを真っ向から否定。どうやらピューとラブーフのソリが合わなかったことが降板の理由のようなのだが、詳しいことは不明である。
またこの撮影中、監督のオリヴィア・ワイルドとハリー・スタイルズがデキてしまった。
イチャイチャする2人にフローレンス・ピューが激怒。オリヴィアとピューの間に亀裂が生じてしまったという噂。
さらにハリー・スタイルズとクリス・パインの不仲説まで浮上しており、完全にカオスな状況と化している。
この裏側の真相を『ドント・ウォーリー・オーディエンス』というタイトルで映画化したら、本作以上のサイコ・ホラーになるんじゃない?