「女流作家の回想 人生を変えたある日曜日」帰らない日曜日 ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)
女流作家の回想 人生を変えたある日曜日
イギリスの上流家庭ニヴン家のメイドとして働く孤児院上がりのジェーン。そしてジェーンはニヴン家と交流のある上流家庭シェリンガム家の子息ポールと深い関係を結ぶ。階級制度のはっきりした100年前のイギリスにおいて実らぬ恋であることは百も承知のジェーン。ポールの突然の死に心を乱されつつもそれを受け止める。既に戦争でふたりの息子を失っていたニヴン夫人は子供の頃から交流のあったポールの死に二人の息子達の死を重ね合わせジェーンに言う。「私(達)は全てを奪われてしまった(だから生きる希望は最早ない)。しかし親に捨てられたあなたは生まれたときにすべて奪われていた。だから恐いものなんてないのよ。それは強みなのよ」
これは絶望感に苛まれていたニヴン夫人の本音であり(息子達の死だけでなく上流階級に生まれてきて嫌なことがたくさんあったんだろうな)、ジェーンはこの言葉を胸に強く生きることを決意する。ポールの死は大変な喪失だったが自分の物にならないことなど始めから分かっていたことなのである。そしてこれこそがジェーンの人生を一変させたある日曜日の出来事だった。
イギリスの上流階級の住む屋敷と緑豊かな田園風景。その上流階級の人々の交遊風景。そこに働く若いメイド達。そのメイドの一人であるジェーンと上流階級の若者ポールとの官能的な愛欲シーン。シェリンガム家の屋敷に一人残ったジェーンが一糸纏わぬ姿で書架に並ぶ(愛すべき)蔵書と戯れる。まるで書物達と愛し合うかのように。そして作家として歩み始めた十数年後?のジェーンの姿と時間的に前後(回想)しながら映像は進んでいく。
最後に、成功を納めた老作家ジェーンが自分の人生を改めて回想する。
文学的な美しい作品。カズオ・イシグロが絶賛した小説の映画化って言うのが売りみたいです。なるほどね。