劇場公開日 2022年6月17日

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「『PLAN75』、次作に期待。」PLAN 75 grumaruさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0『PLAN75』、次作に期待。

2023年8月16日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

カンヌ国際映画祭・カメラドール特別表彰という触れ込みで、2022年に公開された映画です。高齢者の生き方、高齢者の存在を考えさせられます。

■リアリティが感じられない理由
なぜ、この映画には、リアリティが感じられないのか?
1976年生まれの早川千絵監督が持つ高齢者に対する誤解に起因しているか。あるいは、高齢者をめぐる古い社会通念が、この映画からリアリティを奪っているなのか。

「PLAN75」というタイトルが示すように、映画では75歳になると生死の選択権を高齢者に与える法制度が設けられ、その制度に翻弄される人々を描いています。

しかし、現在の75歳は、身体的にも精神的にも映画で描かれた人々より元気です。
日本老年学会と日本老年医学会は、心身が健康な高年齢者が増えたことから、高齢者の定義を75歳以上に引き上げるべきだと提言しており、75歳は高齢者の入口に差し掛かったにすぎません。

タイトルを付けるとすれば「PLN85」、女性中心に描くのであれば、男女の寿命差が5~6歳あるので「PLAN90」とすればよかったのかもしれません。

■ステレオタイプな高齢者の苦悩
年齢設定はさておき、
この映画のユニークなところは、生死の選択権という「法制度」を設定したところで、高齢者の社会的存在について問題提起しています。

ただ、この物語設定が、有効に機能するには・・
 1) 超長寿化等によって多くの高齢者が苦難を抱えるようになり、
 2) その結果、多くの高齢者が潜在的に死の願望を持つようになり、
 3) それを法制度が後押しする
といった前提が必要です。それであれば、生死や善悪について深く考えることができます。

だからこそ、この物語設定に負けないように「”多くの”高齢者が抱える苦悩」をしっかり描く必要があります。

映画で描かれているのは、どちらかというと貧困に置かれている高齢者の苦悩でした。しかし、高齢者の8割が持家に住む現状の日本では、住宅難や就職難は高齢者共通の問題ではありません。

それでは、高齢者の貧困問題を取り上げたのでしょうか?
確かに高齢者は経済的・社会的に多様で、その中で貧困問題はむしろ若者世代以上に深刻です。しかし、PLAN75という法制度は全高齢者を対象にしたもので、制度的に貧困層にアプローチできるものではなく、それでは設定が曖昧になってしまいます。

このように、物語設定が面白いにもかかわらず、「多くの高齢者が抱える苦悩」の描き方が、ステレオタイプだと感じてしまいます。

■シニアの実存を描いて欲しい
それでは、「多くの高齢者が抱える苦悩」、潜在的に死の願望を持つような苦悩や問題はあるのでしょうか。

一つあるとすると「老い」の受容です。
もちろん、老いの受容は今に始まった問題ではありませんが、近年の超長寿化によって、老いとの向き合い方は大きく変容しています。

例えば、高齢者が働きたいと思っても働く場がないという就職ミスマッチは、特に元気で働く意欲を持つ高齢者が増え、働きたい期間も長くなって、拡大の一途をたどっています。
そして、これは映画で取り上げられたように貧困層に閉じているわけでなく、経済的に豊かな高齢者にも起きる新たな問題です。

このように横断的に拡がる高齢者の「社会からの疎外」を、超長寿化が後押ししてしまっていて、社会制度だけでなく1人ひとりが持つ通念を変えない限り、解決が難しい問題になりつつあります。

早川監督には是非、その繊細なタッチで、高齢者のリアルな実存の問題について描いてもらいたいというのが素直な感想です。

2nd Life Stories
赤福餅さんのコメント
2023年9月25日

はじめまして、僭越ながらコメントを書かせていただきます。

レビューを読ませていただいて思ったのが、「現在の介護ビジネスにこのプラン75が組み込まれるとこわい」ということでした。

介護ビジネスの大手の中には「利用者の回転数(マジでこう言っていたところで働いていました)をいかに上げるか」を真剣に考えているところが残念ながらあります。
認知症や要介護度の低い人(ココ重要です。高い人ではありません)は家族の承認を早々に取り付けられて…
精一杯の努力をしておられる、医師・看護師・介護師の方々の思いを無にしかねない『ビジネス』というものが大きくなる可能性があるなぁと思いました。
そういった意味でも考えさせられる映画でした。

赤福餅