「SFであってほしいが」PLAN 75 LSさんの映画レビュー(感想・評価)
SFであってほしいが
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古典的名作『2300年未来への旅』(ローガンズ・ラン)と同じ主題。だがこの映画はとてもフィクションとは思えない。今の社会の状況を踏まえれば、世間がそういう風向きになりさえすれば本当に起こる「もう一つの現実」と信じられるほど、背筋が凍るようなリアリティがあった。
老いて家族や他人に迷惑をかけたくないという思い遣りの気持ち、おだやかに旅立つ手助けをしたいという真摯な気持ち、同調圧力の下での「自分の」意思。それらが結び付いて、 (劇中で自賛されていたように)この国の人々は最高に効率的な人口動態制御政策を自ら実行する能力があるだろう。
劇中では対象年齢が下げられる話も出ていたが、やがて窓口も自治体から外注、孫請けとなり、受諾数にはノルマが課せられ、ますますシステマティックに「社会全体にとっての適正なバランス」が追求されるのかもしれない。だがその実態は、遺品略奪のシーンがいみじくも想起させるように、アウシュビッツと同じ国家が線を引いて行う大量殺人と違いがない。
そういう未来の可能性への警鐘として、この作品を完成させ公開してくれた各位に心から感謝を。
追伸:こんな風に悲観的に考えてしまうのは、やまゆり園事件がモチーフと思われる衝撃的な導入が、(製作時はおろか公開時点でも想定外だったろうが)奈良の事件後の展開が含意する「殺人はいけないが犯人が提起したことにも一理ある」といった考え方を許容する空気とぴったり重なるから。悪い意味でとてもタイムリーだった。
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