劇場公開日 2022年6月17日

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「黄昏の国に潜む微かな希望の余韻」PLAN 75 penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0黄昏の国に潜む微かな希望の余韻

2022年7月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この作品を見て、評論家の江藤淳氏が「脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は、形骸に過ぎず、自ら処決して形骸を断ずる所以なり」の遺書を遺して1999年自ら命を絶ったことを思い出しました。この作品の主人公とは違い、弱者とはとてもいえない傍目には恵まれた人だった訳ですが、それでも自ら死を選んだりしてしまうのです。何故か?

この映画の主人公にも、あることを勧められるもその選択をしないシーンがあります。多分根底にあるものとして共通しているのは「迷惑をかけたくない・社会の役に立ちたい」という「自尊心」であり、それが傷つけられるのが老いの本質ということなのかもしれません。

正解は多分ありませんが、この作品のヒントは「関係性」の回復への希望とこの世界の「美しさ」の再発見であるように思いました。特に寒々としたディストピアをとらえる映像は、タルコフスキーの「ノスタルジア」を思わせる色彩で、黄昏を迎えた日本という(いまや)後進国の、何でもない風景に潜む美をよく捉えていたように思います。幸福は多分普段気付かない見えないところに宿っているのではないか。そんなことを余白の中に感じました。

ともあれ、現在の出生率が継続すると、いずれ日本は消滅する計算だそうです。また世代間の年金収支較差は、維持不可能な状況まで拡大している現状があり、この映画で描かれているように周到に政府による自殺幇助罪を回避する仕組みが用意されれば、可能性ゼロの世界ではないかもしれないと思うところに怖さを感じました。いろいろと考えさせられる映画でした。

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