劇場公開日 2022年6月17日

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「審査員は「姥捨山」がお好き」PLAN 75 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0審査員は「姥捨山」がお好き

2022年6月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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「第75回カンヌ国際映画祭」の「ある視点」部門で
「カメラ・ドール」の「スペシャル・メンション」を受けたとの報に接し、
思い出したのは〔楢山節考(1983年)〕で『今村昌平』が「パルム・ドール」を受賞した履歴。

「姥捨山」にも代表される「棄老伝説」は
日本では〔今昔物語集〕にもある馴染みのある説話も、
外国人の目からすれば新奇に見えるのだろうか。

野生の動物なら、老いて自分で餌を獲れなくなれば
自ずと逍遥として死に向かうだろうし、
一方で象などは老練な雌が群れを率いるとの現実もあり。

また「ネアンデルタール人」も
病人や虚弱な仲間の面倒を見る社会性を持っていたらしいことを勘案すると、
我々はよほど彼等よりも劣っているのかもしれぬ。

本作の舞台は75歳を過ぎた老人が
自身の意志で死を選択できる「PLAN75」が法制化された近未来の日本。

老人の増加が国力を弱めるとの、かなり「優生思想」に近い内容だが、
それ以外の社会的弱者にも当該プランが波及するのかは、
ここでは触れられない。

しかし、こうした一種の「ディストピア」でも、
それに群がり不正を行う集団の存在は
軽くではあるものの触れられる。

またそれは「ナチス」が、殺害したユダヤ人の死体から、
金歯や銀歯を抜き取ったとの過去をも彷彿とさせる行為。

もっとも、今の年金制度が維持されれば、
貧困のうちに死を選択する可能性は低かろうが、
それへの締め付けが前段で実施されれば、
選択の余地は無くなるだろう。

或いは、雇用の年齢範囲を狭めてしまえば猶更のこと。
実際、今でも一人暮らしの老齢者は、借家の確保が難しくなって来ていると言うし。

営々と働き税金を納め、勤労以外でも社会や国に貢献した結果がこれでは、
あまりにも報いが無い。

もっとも、それを不思議とも思わぬ、思想の形成が出来上がっているのだろう。

高齢者が希望をもてぬ社会は、若年層にとっても生き辛い世界に違いなく、
システムの下世代への波及は容易に想定されるのだが。

本作の主人『ミチ(倍賞千恵子)』はそうした下地があり
「PLAN75」を選択する。

また申請窓口を担当する職員『ヒロム(磯村勇斗)』は
あることを契機に一連の流れに疑問を持つ。

プラン対象者への心のケアを担当する
コールセンターのオペレーター『成宮(河合優実)』は
電話の先に居るのは血の通った人間であることを
今更ながらに実感する。

そうした幾つかの化学変化が、ラストの美しいシーに結実する。

個人的には、これは暗黒の社会への光明と思いたい。

劇中『倍賞千恵子』がカラオケで歌う〔リンゴの木の下で〕が
特にその歌詞が重要なアイテムとして機能する。

それは理解しつつも、自分としては、
〔下町の太陽〕を聞きたかったなぁ。

ジュン一