「(余りに長すぎるので便宜上のネタバレあり/ネタバレなし。法律的な観点や他の方の疑問点など)」PLAN 75 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
(余りに長すぎるので便宜上のネタバレあり/ネタバレなし。法律的な観点や他の方の疑問点など)
今年171本目(合計447本目/今月(2022年6月度)18本目)。
まず、過去に3.5評価した映画は、2021年度の「樹海村」(極端にグロテスク、食事ができないような発言をする)、「DAUナターシャ」(モロに本番行為)だけです。
また、私自身が行政書士合格者で、やや法律的な観点で見たというのも採点上関係するかもしれません。そこは人によって異なるので…(とはいえ、合格者(未開業者)含めて、弁護士~行政書士まで14万人しかいないとされるので、どうしてもレアなんでしょうね…)。
さて、映画の内容。
といっても、多くの方が書いているし、「なぜか」カンヌ国際映画祭で取り上げられたという事情もあれば、ここの特集でも書かれているように「75歳以上の高齢者に安楽死の権利を与える日本がやってきたら」というifを描く映画。
…と考えるだけなら、「いわゆる人権枠の映画」(個人的には「憲法枠」と呼んでます)なのでは?というところですが、一応には13条(幸福追求権)が該当しえるし、リアル日本でも安楽死の導入に賛否両論ある点は知ってはいますが、それを超えても内容が支離滅裂です。
また、映画内で「明示的には描写はされるが、なぜか表立って問題的されない」点についても傷が大きく(正直、ボランティア団体等から苦情が殺到しそう)、正直「配慮のなさ」がすごいです。どうするとこういう映画になるんだろう…。
…と思ったらこの映画、「日仏合作」(実際には、フィリピンも登場する。登場人物の一人が、フィリピンからの出稼ぎ(?)という扱いであるため)という事情なのか「日本の福祉行政まであまり考慮しなかった」のではないか…と思えるフシもあります。どうしても他国の細かい制度なんて知っている方は少ないですからね…。
とはいえ、これはさすがにブチ切れる内容です。
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(減点1.5) 結局、下記に書きますが、「配慮のなさ」がとにかくすごく、ある程度の「耐性」が必要な映画です。映画って何らかの意味で娯楽枠なら娯楽枠、こういう映画のように「考えさせる枠なら考えさせる内容」というのはあるはずで、この映画は後者のほうにあたるはずなのですが、あれこれ珍妙な描写やら不愉快にさせる表現やら出てきて、さすがにブチギレラインです。
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▼(不愉快なシーン) ホームレス排除?
→ この映画には「ホームレス」という語は一切出ません。出ませんが、ホームレスを想定する描写は2回存在します。一つは、ホームレスの方がベンチ等で横に「なれない」ようにベンチ等に仕切りを作るシーン(福祉行政では俗に「排除アート」という)、もう1つは「(制度が変わって)住民票がない方でも対象になります」という看板が出る(ここに卵か何かを投げつけられるシーンも存在する)ところ。
この映画はそもそも「国による安楽死はありかなしか」を問う趣旨の映画だったはずですが、「語句としては登場はしないが、ホームレス排除を想定した描写になっている」ところがあります(これらの点について予告は一切存在しないし、かといって、ホームレスの方に人権があるとかないとかという話も一切されない)。
これはさすがにどうなのか…というレベルで、映画の作成・公開に表現の自由・言論の自由があるように、ホームレスの方やその支援団体も、明らかな「趣旨違いのクレーム」でない限りこれについて意見を述べる権利はあるのであり、明示的に出ないとはいえ、なぜにこのような描写を2回も入れたのか正直謎な上に不愉快です(映画側 vs 支援者グループでバトルでも始まったらどうするんでしょうか…)。
▼(趣旨不明なシーンその1) 他の法律との関係
・ 単に最初に「いわゆるplan75、75歳以上の高齢者に安楽死の機会を与える趣旨の法律が可決され…」となっていますが、この法律は当然、他の既存の法律とバッティングします。一番の代表例は年金に関する法でしょう(これに応募して亡くなった場合、未支給年金は受け取れるかどうか等)。
ほか、映画内では「ギリギリ出るか」というだけですが、生活保護法との関係もあり、この法を「本気で」発動させると行政は「いや、生活保護を申請するならplan75を申し込め」とか言い始めることになるのは当然のことなので、福祉行政とも矛盾・抵触します。
さらには、民法上の不法行為責任(消極的な名誉棄損から、積極的な交通事故まで)についても、訴訟(民訴)になったときに「あなたはplan75に申し込んでいて、賠償する部分が存在しない」(原則として将来の逸失利益の賠償になるため。原則。例外あり)と言い始めると「不法行為祭り」です。換言すれば、このような法律のもとでは「高齢者は轢きたい放題」と化するのであり(もちろん、申し込んでいない人との間では、通常通り不法行為責任で賠償の問題になる)、倫理的に支離滅裂です。
※ 不法行為に基づく賠償が金銭賠償が基本で相殺が禁止されている理由が「不法行為の誘発の防止」である以上(最高裁判例)、それとも矛盾します。
▼(趣旨不明なシーンその2) 悪用される恐れ等に関する注意事項、描写がない
・ この年齢(75歳)にもなると、認知症が始まる可能性もあります。そのような場合には成人被後見人制度などがあります(ほか、保佐人・補助人という制度もあります)。特に「分別すらつかない」最も重いのは「成人(被)後見人」であり(面倒を見る人のことを「後見人」といいます。主には司法書士の方が担当しますが、法に触れない限り行政書士の方や、そもそも親族の方が任命されることがあります(家裁が担当)。
すると、そうした人が勝手に悪用すること自体は容易に想定がつきますが、これに関する描写は一切なし。
また、いわゆる「だまされたパターン」((民法上の)詐欺)など、つまり、
・ 心裡(しんり)留保(93) → する気もないのに「やるよ」という「うそつき」パターン
・ 錯誤(95) → 相手とのやり取りで思い違いがあり勘違いを起こすパターン
・ 詐欺・強迫(96) → 相手をだましたり、おどしたりするケース。
・ 無権代理、表見代理(110以下) → 勝手に相手の代理人になりすます、被害にあうなど。
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(※参考) 「きょうはく」は、民法上では「強迫」、刑法上では「脅迫」と漢字が違います。
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…などとの関係で完全に破綻をきたします(かつ、映画内では一切これらは出ないが、これらが絡んだら、命を奪うという行為であるが故に(単にお金をだまし取られた、などとは違う)、誰が責任を取るのか、というのが、完全に現行民法の想定する範疇を超越している)。完全に「何とでもなってしまう」、換言すれば「法の支配がない何でもありムチャクチャワールド」となってしまっているわけです。
※ わかりやすいのが「第三者の詐欺」のケースで、CがA(申込者)に詐欺を働いて、AがB(コールセンター)に電話をした、というようなケースでは、複雑になってしまいます。
まぁ、この映画はおそらくそれでも「もし日本で安楽死が合法化されていたら?」という趣旨の映画であり、法律云々をどうこういう論じる趣旨の映画ではないことは重々承知もしているのですが、「ホームレス排除?」と思えるようなシーンなど、明らかに配慮不足なところもあり、「ブチギレ度合い」はかなり高いです。
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▼ (ここから、6月20日追加、他の方が書かれていた疑問点など)
※ 行政書士合格者レベルの回答です。
・ 「もし翻意した場合、手渡したお金はどうするのか?」
→ これは、リアル日本で、ハローワークを利用したときに早期に就職が決まったときにいわゆる「再就職手当」(昔は祝い金的に言われていたし、今でもその側面はある)と実質同じです。このあと、入った会社が余りにブラックですぐに離職したからといって、再就職手当を返せ、とは(客観的証拠があれば)言われないのと同じ話です。
※ リアル日本で少し前にお騒がせした、中国四国地方の某事件(誤入金事件)の「不当利得」とは扱いが違います。
・ 「私企業があんなことをやっていいの?」「勝手に会っていいの?」
→ 国も地方自治体もすべて、行政がすべての活動をやっているのではなく「民間委託」というものがあります(大阪市だって、ごみ収集は表向き大阪市ですが、実態は民間)。
その場合でも、国が行うべきことを代わりに行っているのですから、いわゆる「みなし公務員」の適用を受けます(この手の法律では、みなし公務員の規定は必ずあります。つまり、勝手に情報を漏らすななどは法律でカバーされます)。
ただ、このように「ほとんど死刑執行に近い行為」を民間委託するというのが実際上倫理的に変で(人違い等があった場合に国家賠償を提起されると恐ろしく面倒なことになる)ためかなり奇妙です(奇妙というより、「どこの国ですか?」状態)。
・ それだと、「意思表示すらできない寝たきり老人はどうするのか?」
→ まさにその通りで、映画内でこの点に関する描写がないのが非常に不自然かつ、複雑な論点を「逃げた」と言われても仕方がないでしょう。
要は、要介護4~5や重度身障1級の寝たきりの方は対象にならないが、75歳でも元気な人は対象になるという「妙な逆転現象が発生する」(映画の趣旨でいう「高齢者にかける税金の削減」「だけ」を考えれば、前者を対象にしたほうが良いのは明らか)という論点です。
・ 国民はこの変な法律に対して裁判を起こすことができるか?
→ そもそも支離滅裂すぎて「ここは日本ですか?」という状況ですが、いかに倫理的に変な法でも、具体的な事件が起きたとき、その事件を争うなかで法が憲法に違反する、という主張しかできません(付随的違憲審査制)。つまり、具体的な事件とは別に「この法は憲法に違反する」という主張(抽象的違憲審査権)は認められていないのです。
まぁ、この映画、本当にどこが舞台なんでしょうねぇ。
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まだ、よく読ませていただいておりませんが、最後だけ読ませていただき、共感いたします。また、フォローいただきありがとうございました。行政書士の資格をお持ちとのこと。信頼できる内容と思います。ありがとうございます。なんか、お礼言うもおかしいですが、この映画に怒りを感じない方が多くて、僕は、それが腹立たしくて。
それは兎も角、僕はこの女性の監督を利用して、私欲を得ようとしている後ろ盾が怖いと思っています。余り、書きすぎると削除されますので、ご迷惑かけないようにこのくらいにしておきます。僕もフォローさせていただきます。
但し、フォロー頂いた映画は『ヴァン・ダインの二十則』から共感できず申し訳ございません。