「自分が生まれる前に眩いばかりの楽園が存在したことに激しい嫉妬すら覚える美しくて切ないドキュメンタリー」ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック よねさんの映画レビュー(感想・評価)
自分が生まれる前に眩いばかりの楽園が存在したことに激しい嫉妬すら覚える美しくて切ないドキュメンタリー
ほぼ世界史の授業のような作品。ザ・バーズ、バッファロー・スプリングフィールド、ママズ&パパス、ドアーズといった自分が生まれる前に結成され活躍したバンドがみんな住んでいたローレル・キャニオンの逸話のどれもが眩しくてそんな素晴らしい時代に生まれていなかったことに激しい嫉妬すら感じます。アーティスト達が創作面で影響を与え合ったり、バンドメンバーを仲介したりと交流を深めていく中でジョニ・ミッチェルやジャクソン・ブラウン、イーグルスといったアーティストも世に送り出される奇跡のような時間を眺めていると何もかもが羨ましくてスクリーンが涙で霞みました。意外だったのはただの傀儡バンドだとばかり思っていたモンキーズもローレル・キャニオンの住人でローレル・キャニオンでのアーティスト達の交流に一役買っていたこと。長い間誤解していて申し訳ありませんでした。当時アーティスト達と親しくしていてアルバムジャケット撮影も多く手がけた写真家のヘンリー・ディルツやヌリット・ワイルドらが捉えたアーティスト達の姿もどれも皆カッコよくて、その中にセルジオ・メンデスのスタジオ工事現場にいた大工時代のハリソン・フォードのスナップも一枚混じっていて吃驚しました。他にも椅子から転げ落ちそうなぐらいのレア映像が当たり前のように出てきて何もかもが眼福でした。しかしキラキラした歴史だけではなく、ベトナム戦争、血の日曜日事件、ジム・モリソンの死、チャールズ・マンソン一味の凶行を経て次第に輝きを失っていく楽園の姿もしっかり捉えています。
個人的にはママス&パパスのミシェル・フィリップスの美しさに度肝を抜かれました。ジョニ・ミッチェルもデビュー前から圧倒的な存在感を示しているし、意外なところでスティーヴ・マーティンもリンダの前座を務めていた等のエピソードもあったりして自分の青春時代であった80年代とのつながりも感じて至福のひとときでした。