「谷口悟朗イズムの集大成的作品。『スクライド』の侠×侠の熱き迸りがよみがえる!!」BLOODY ESCAPE 地獄の逃走劇 じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)
谷口悟朗イズムの集大成的作品。『スクライド』の侠×侠の熱き迸りがよみがえる!!
やっべ、めっちゃ『スクライド』じゃん、これ!!
ゴローちゃん、やっぱりやればできる子じゃないか!!!
谷口悟朗度数、純度1000%の超エンタメ作。
『エスタブライフ』はTV放映時にリアタイ視聴済み。
あれ自体は、きちんと作ってはあったけど、
まあまあ「ぬるい」3Dアニメでもあった。
しょうじき今回も丸きり期待していなかったので、
実見して、あまりの面白さにぶっ飛んだ次第。
谷口悟朗の全盛期を知る人間にとって、
彼の「復活」はただただ嬉しいの一言に尽きる。
『無限のリヴァイアス』『スクライド』『プラネテス』と、手掛ける作品が片端から大当たりしていた2000年代初頭に僕はアニメを観始めた。僕にとって、谷口悟朗はヒーローだった。その後、『ガン×ソード』はそこまでではなかったとしても、続く『コードギアス』の正続二期は、まさに社会現象といっていいくらいの大ヒットを記録した。
ただ、そこから続く低迷期は長かった。
僕個人の感覚でいうと、7本くらい連続して盛大にコカしてる印象で、むしろよく仕事が途切れないで続けられてるな、と内心感心していたくらいだ。
TVアニメでスベりまくりながらも、なんとか劇場版『コードギアス』の連作で面目をたもってきた、この十年余りの歳月。
異世界転生もの全盛の時代に、一応面白くはあるんだけどどこかゆるくてぬるい、チープでズレた群像劇仕立ての3Dアニメをポツンと見せられる違和感は、正直ハンパなかった。
いろいろと毎回「メディア横断的な仕組み」を「斬新なアイディアで仕掛けてる」のはよくわかるのだが、そういう「電通くさい発想」自体が妙にオッサンじみていて、総じてえらく「しんどい」感じだった。
ところが、さすがにもうダメかと思っていたら、『ONE PIECE FILM RED』を爆発的に成功させて、谷口は華麗なる復活を遂げた。これでまた、しばらくは「やりたいこと」が続けられるだろう。谷口悟朗は、不屈のアニメ監督である。
今回の作品も、そこまで人は入っていないかもしれないが、これだけ面白ければきっと口コミも呼ぶだろうし、配信に回ったら相当数観てもらえるのではないかと思う。
僕個人としては、出来が良かろうがゴミだろうが、谷口悟朗が作品を作ればそれはもう観るしかないのだが、今回の『BLOODY ESCAPE』はお世辞抜きで面白いので、ぜひ一人でも多くの人に観てほしいどころだ。
― ― ―
『BLOODY ESCAPE』は『エスタブライフ』の映画版ではあるが、その建付けはTV版ののんびりしたテイストとは全く違う。
よりハードボイルドで、よりアクションがひりついていて、よりキャラクターに深みがある。話にくだらないおチャラけたところがない。
ノリとしては「サイバーパンク」に「マカロニ・ウエスタン」を掛け合わせた感じ。
要するに、全盛期の谷口悟朗節に、思い切り回帰している。
まずは、荒野でひたすらぶっ飛ばし合う侠(おとこ)二人ってのが、彼のバトルものの原点ともいえる『スクライド』そのままで、観ているだけで心が熱くたぎってくる。
谷口悟朗といえば、侠と侠の殴り合いだろう、やっぱり。
友情と憎しみの果て、恩讐の彼方にふたたび相まみえた二人は、どちらかが斃れるまで、いつまでも殴り合うしかないのだ。
複数の登場人物がやたら「妹」に執着しているのも、いかにも谷口悟朗らしい。
世界観の粘っこい設定(都市国家的発想)も、何度も観てきた谷口仕様だ。
チャンバラ&ガン・バトルの融合。地盤崩落ネタの逆転劇。ワイアーアクション。
改造人間の主人公。新興宗教っぽい敵組織。騎士道精神のある誠実な敵キャラ。デンパゆんゆんのサイコパス系殺し屋キャラ。極端に頭の膿んでる愛すべきコミックリリーフ。
いずれも、これまでの谷口悟朗作品で観てきたおなじみのネタばかりだ。
そう、本作は長年谷口が培ってきたあらゆる要素をすべてぶっこんだ、まさに集大成的な作品なのだ。
何より、「個」より「全」を優先する思想と、「個」を尊重する思想のぶつかり合いこそは、谷口が『リヴァイアス』以降ずっと追い求めているテーマであり、今回の敵の総大将の立ち位置は、少し『ガン×ソード』の「カギ爪の男」とも被るところがある。
ただし、今までの谷口作品では、主人公の側が「復讐者」で「追跡者」だったのに対して、今回は敵勢力のほうが「復讐者」で「追跡者」となる。これは、クラスタ(コロニー)からの「脱出」がもう一つのテーマになったがゆえのジョブチェンジともいえる。
追いすがる敵を振り切って、彼らは「新天地横浜」へとたどり着けるのか?
密度の高いアクションの連続。合間合間の情感とペーソスのある掛け合い。新宿クラスタ脱出後の波状攻撃と手に汗握るサスペンス。
いやあ、掛け値なしで面白い。こういうのが観たかったんですよ。
と、これだけ絶賛しながらなんでフルマークじゃないかっていうと、やっぱりどうしてもこの作品の3Dは、僕にはなじめないというのが大きい。
これだけの谷口イズムの集大成的作品ならば、やっぱり手描きアニメで観たかったというのが正直な本音である。
もちろん、谷口がいろいろ考えて、ここ数年3Dアニメに移行しているのは理解しているつもりだし、彼が理想とする「“リミテッドアニメ”としてのCGアニメーション」が花開けばそれに越したことはないのだが、現状ではやはり違和感のほうが大きすぎて、この作品にとっては「内容に集中して楽しむための阻害要因」にしかなっていない。
特に他の3Dアニメーション作品と比べても、ヤクザ軍団の動かし方とか、マスの人間の挙動にはあまりにおかしなところが多すぎるし、天下のポリゴン・ピクチュアズの割にはどうもいろいろ動かしきれてないなあ、という印象が強い。あと、やっぱり表情の描写がどうしてもしんどいんだよね。せめて「顔のパーツだけは手描きを混ぜる」とか、うまくできないものなんかね?
それとくだらないことだけど、正タイトルはまあ良いとして「地獄の逃走劇」って副題はどうなん?? さすがにちょっとダサすぎないか??(笑) だれも広報の連中はこれをとめなかったのだろうか……。
とまあ、そうはいってもマイナス点などたかがしれたもの。
2000年代の谷口作品が好きだった人なら、間違いなく「のれる」傑作だと思う。
ぜひ機会を見つけて、谷口のすべてがつまった本作を堪能してほしい。
以下、細かな点をいくつか箇条書きで。
●ゆきのさつきと倉田雅世は『ガン×ソード』つながりもあって、何が何でもキャスティングしないと気が済まなかったんだろうな(笑)。
電気体質―ヴァンパイア体質、オリジナルセブン―四志将(ひとり欠けて逐電した人物が主人公で、組織と敵対しているところまで一緒)、個より全を優先する敵の思想、穏やかな聖人でありながら暴力的でもある敵ボスの性格など、本作は『ガン×ソード』の設定と特に被るところが多い。
ララック/ノノックも、明らかにオリジナルセブンのメンバーとして出て来た双子カロッサ/メリッサの発展形だもんな。性格とか戦い方とか。
●一方、敵の不滅騎士団は、潔いくらいの『スター・ウォーズ』のストームトルーパーのパクリ(笑)。新宿クラスタの様子はどこか『ブレードランナー』っぽくもある。クラスタが点在するようすは『キングゲイナー』っぽい。終盤で電車バトルが展開するのは、ちょっと『甲鉄城のカバネリ』の映画版を想起させる。
●パンフを見て初めて、新宿クラスタにいる「ヤクザ」が職業ではなく、種属名であり、群人(むれびと=スライム人間)を生み出す実験途中で誕生した亜種だということを知った。マジかよ(笑)。「ヤクザは種族」って発想の転換は、なんとなく篠房六郎のコミック『百舌谷さん逆上する』の「ツンデレは病気」ってのに似たところがあるな。
●声優陣は全員ビタっとはまっていた(今回はプレスコ)。
とくに、エクア役の子が廃業した結果、大橋彩香に変わっていたらしいのだが、予備知識無しで観たので、クレジットを見るまでまったく気づかず。声優ってホントすごいよな。
TVシリーズからポンコツ化の一段と進んだアルガ役の速水奨が、超楽しそうで良かった。
ジャミ役の内田雄馬も結構ぶっ飛んだ役を器用にこなしていて、感心。
あと、どれだけコミカルな役回りが増えたとしても、やっぱり山寺宏一にはこういうイケボのキャラクターが良く似合う。
●今回のパンフはいろいろ面白くて、主演のキサラギ役、小野友樹が谷口悟朗から「今までの小野友樹としてのお芝居の技術を捨ててほしい」という手紙をもらったこととか、ルナルゥ役の上田麗奈が収録中ずっとなんだか分からない涙に溺れていた話とか書いてあって、いかに今回の谷口が「本気(マジ)」で、現場も全員熱くひりついてたかが確認できてよかった。
●それにしてもなんで「人形町」クラスタなのか? 人形町といえば思いつくのは、旧吉原(風俗)、蔭間茶屋(男色)、芝居、水天宮、今半、東野圭吾の『新参者』くらいなのだが。立地でいうと、信濃町とか方南町とかなら「あっ」ってピンとくるんですけど(笑)。
yuiga oishi様
コメントありがとうございます! TV版は女性三人が超優秀な一方で、男性ゲストはコミカルなキャラが多いので、ちっとも男臭くないうえ、人もほぼ死なないので、テイストはかなり異なりますよ。でも機会があったらノーパン回はぶっ飛んでるのでぜひ(笑)。
ワンピースREDでヒットメイカー的な作劇かなと身構えていたら良くも悪くもいつもの谷口監督作品て印象でした。
テレビシリーズは知らなかったのでやたらキャラが立ってる逃し屋の人たちに違和感あったのですがスピンオフ的な作品やったんですね。
作劇の方針は好みだったのですがやはり3DCG作画がちょっとキツかったです。特にヒロインがアップで泣くシーンは厳しかったです…。
返信ありがとうございます。
そうすると、やはり『エスタブライフ BLOODY ESCAPE』が最適解ですかね。
TVシリーズは絶賛こそできないまでも、ぶっ飛んだ展開が嫌いじゃありませんでした。
魔法少女回とノーパン回は、その中でもインパクト抜群かと。笑
こんばんは。
「ヤクザは種族」、知らなかったので読んでてビックリしました。
世界観、裏設定など知るとより面白くなりそうですね。
タイトルは元々『エスタブライフ リベンジャーズロード』だったそうで…
こっちでよかったのでは、と思います。笑