「うっすら漂う絶望に対して」小説家の映画 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
うっすら漂う絶望に対して
2022年。ホン・サンス監督。スランプに陥った小説家は久しぶりに郊外の後輩を尋ねに行く。過去のちょっとした行き違いもなんとなく和解した後、今度は偶然、旧知の映画監督と出会う。こちらは過去のわだかまりが解けないまま、その監督を通じてたまたま出会った俳優(キム・ミニ)と会話が弾む。そして映画を作ろうということで意気投合して、、、という話。
その映画作りで「物語はたいして重要ではない」と言われているのは、この映画自体の解題。また、小説家が話す3グループとの会話はずれながらも同じような内容になっている。そしてこの会話の発言(または無言の間)から漂ってくるのは、そこはかとない絶望感。冒頭の後輩との会話の後、観光名所のタワーに上るのだが、見ている方は不吉な予感にどきどきしてしまう(最後の映画館でも屋上に行くのでまたどきどきする)。
何か始めなければということで映画づくりをする小説家だが、危なっかしいことこのうえない。それを土壇場でぐいっと支えるのは、最後に小説家が撮ったという体で流れるキム・ミニの映像。ところが、どうみてもこの映像はホン・サンスが実生活でパートナーであるキム・ミニとの「純粋な愛」を撮影して映像として流れている。つまり、映画内でのお約束など無視して、ここで「純粋な愛」の映像を見せなければならないということなのだ(ちなみに、全編モノクロでここだけカラー)。
これを喜ばしく見るか、あざとい手法だと見るか。わたしには深い絶望に見えました。
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