「疑似家族」午前4時にパリの夜は明ける ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
疑似家族
一昨年の夏に『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』という映画の4K完全無修正版をミニシアターで観た。監督がセルジュ・ゲンズブール、主演がジェーン・バーキン、この映画の主人公シャルロット・ゲンズブールの両親である。1976年という時代背景もあるかと思うが、両親の映画は当時物議を醸した過激な内容になっていた。それに比べて、娘が出演しているこの映画は家族愛をテーマにした心温まるものに仕上がっている。ただ、シャルロット・ゲンズブールも、ランス・フォントリアー監督の作品では過激で異色な役柄を演じたらしい。
この映画では真っ直ぐな瞳が印象的な家出少女タルラの存在感が際立つ。エリザベートは深夜ラジオの聴取者参加コーナーに出演したタルラが行き場のないことを知り、自宅に連れ帰り、部屋を与える。この出会いを機に、エリザベートは悲観していた自身の境遇を見つめ直し、エリザベートの息子は、タルラと一緒に過ごすことによって学校では教えてくれない現実を学んでいく。彼女は義務教育しか受けていないが、世間知が高いのだ。息子はタルラをだんだん好きになっていくが、彼女は突然姿を消してしまう。数年後一家と再会する時には、薬物中毒になっているところがなんとも切ない。誰も助けてあげられなかったのか。でも、エリザベートの説得により、タルラは薬物を断つことを決意し、一家とは疑似家族となって、絆を深める。最後にシャンソンに合わせて家族みんなでダンスをするシーンがあるが、タルラも一緒になってダンスするところは微笑ましい。タルラのこれからの人生に幸あれと願わずにはいられない。
80年代には私もラジオの深夜放送をよく熱心に聴いていた。聴いているのは1人だったが、なぜかそこには1人であることを感じさせない親密な共同体ができあがっていたことを思い出した。