「合法でも安全でもないが、やるしかなかった」コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話 Pocarisさんの映画レビュー(感想・評価)
合法でも安全でもないが、やるしかなかった
非合法時代の妊娠中絶という点では、国は違いますが「あのこと」という近年の作品もありました。
「あのこと」は施術の困難と、痛みを観客にも感じさせる作品でしたが、この作品は痛み(心のではなく体の)を感じさせることは目論見ではなかったようで、だいぶ角度が違いました。
まず序盤での医師たちの女性を人とも思わないような扱い。夫の発言だけしか相手にせず、妊婦には話しかけることすらしない。
妊娠が原因で母親が死んでも知りません、中絶はできません、しかし妊婦の前で煙草は吸いますという人たち。
これは医師に限らず、母体の安全のためだとしても妊娠中絶という選択肢を与えようとしない制度や社会、当時の多数派=無関心な人々の通念を端的に表したシーンだと思いました。
このシーンではっきりわかるとは、資格を持った医師に施術してもらうのは極度に困難ということです。
「資格を持っていない人がやるのはどうか」「これがいい話なの?」などというコメントが複数みられますが、正しくなくても安全でなくてもやるしかなかったのだというのが、この映画に描かれていることです。
間違っているのは、彼女たちをそんなことをしなくてはならないところに追い込んでいる法律や社会の方でしょう。モヤモヤするべきところはそこですよね。
その法律が変わるまでの話でもあります。(また元に戻りかけてますが……)
おそらくあえて暗くなりすぎないように描いているとは思うのですが、主人公の夫のキャラは、男性も「正しさ」で切り捨てて終わる人ばかりではないという、わずかな希望としてもあると思います。終盤で彼が行ったことには少し驚きました。
シガニー・ウィーバーがまだまだ魅力的でした。
それと、基本的な知識として1960年代末のことを知っておくのは大事だろうと思います。
彼女たちの「連帯」が生まれ得たのも、あの時代の空気が多かれ少なかれ関係しているでしょう。