劇場公開日 2024年3月22日

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「多くの方に見ていただければと思うところ(発展的な内容など入れてます)。」コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0多くの方に見ていただければと思うところ(発展的な内容など入れてます)。

2024年3月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年115本目(合計1,207本目/今月(2024年3月度)33本目)。
(前の作品 「四月になれば彼女は」、次の作品「ブリックレイヤー」)

 直接的には日本のお話ではないものの、実質的には法律枠ではあります。
以下、感想や調べた内容ほかは行政書士試験合格者レベルのお話です。

 映画そのものは、もとになる事件をモチーフに描いているので、あることないこと変えられず、また結末も変えようがないのでかなり淡々と進みます。この映画で描かれているできごとは、その後アメリカという国においてたびたび国を分断するほどの議論を巻き起こす出来事となってしまいますが(後述)、映画内ではそこまでの言及がなかったのがちょっと惜しかったところです。

 また、あまり法律的な知識がない方でも見られるようにという配慮から、このできごとが国内(アメリカ国内)で何をもたらしたかなどの発展的な観点にかけてしまうため、「それでいいの??」という観方にどうしてもなってしまう点、また、それを助長しかねない点(妙に陽気なBGMが流れるなど。ちょっとBGMについてはチョイスして欲しかった)など、個々気になる点があります。

 ただ、実際にアメリカで何が起きたのか、また現在起きているのか、日本ではどうなのかといった発展的なことは映画では描かれておらず、こうした部分についてはやはりレビューサイトで個々書くものだと思うので、そこに入ります。

 採点に関しては明確に気になったのが以下のところです。

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 (減点0.2/BGM(背景音楽)に配慮が足りない)

 この映画をどうとらえるかという究極論に突入する点は理解するものの、極端に陽気な音楽ばかりチョイスするのもどうなのかな…といったところです(どこまで法律的な話に立ち入るかは別にして、問題提起型の映画ではあったはずだと思っています)。
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 ★ 以下は、行政書士合格者レベルでのお話です。

 (減点なし/参考/この事件をめぐって当時何が起きたか)

 ※ アメリカと日本では裁判制度が異なりますが、特に趣旨が変わらない限り日本の基準によるものに修正して書いています(本質論は変わらないため)。

 ・ この時期、この件とは別に、妊娠中絶を認める認めないの裁判が争われており、憲法裁判とし、憲法審としてアメリカ最高裁で争われていました(憲法裁判とは、憲法のある規定が違憲であると争う類型をいい、憲法審とは「その範囲だけで、合憲違憲を審議する」もの(通常は最高裁が担当する)です。

 この事件で逮捕された原告は、趣旨が同じであるこの判例が出て、それをもとに裁判をすすめるという「遅延戦術」を取りました(ただ、これ自体は趣旨としては理解できる)。この「そもそも妊娠中絶を取り締まる規定が憲法に反するか」の判例が確定すると、こちらの事件(映画内で描かれている事件)もそれに従って対応されています。

 ※ 日本では憲法学習では「判例百選(憲法)」を使うことが多いですが、アメリカの法学習制度においても、そのような「アメリカ版判例百選」にもこの判例は掲載されているものと思います。

 ※ 詳細についてはネタバレになるので省略。

 (減点なし/参考/この事件をめぐって、その後何が起きたか)

 妊娠中絶を「選択」できる権利を「プロチョイス権」といい、これを主張した人や団体に対し、胎児の生命を優先する「プロライフ権」という概念を支持する人、団体ができ、この後、アメリカは考え方により世論が二分され、「この事件」の後も大統領レベルで(有名どころではレーガン大統領、クリントン大統領など)が「範囲を超えて」裁判に介入しようとしたり(制度は異なっても、日本と同じように三権分立の考え方はアメリカにもあります)、女性の有力者(有名なところでは、ヒラリー・クリントン氏など)も独自の考え方をもったりと、妊娠中絶は是か非かで、アメリカは二分されていくようになり、現在(2024年)にいたっては、判例の見直しも一部行われています(詳細についてはネタバレ回避)。

 また、アメリカは基本的にキリスト教文化を持ちますが、それとの結びつきにより宗派論争になるなど混乱も見られます(現在においても軽い対立は見られる)。ただ、一つのアメリカの「憲法審」によって一つの解決を見た事件であることは間違いがなく、アメリカの判例を探すと必ず出てくるものです。

 (減点なし/参考/日本においての事情)

 日本では刑法に「堕胎に関する罪」として、堕胎罪(単純堕胎罪(自己堕胎罪ともいう))から、不同意堕胎などいくつかの罪が規定されていますが、同時に母体保護法により条件を満たしたときの堕胎は罰されないとされたため、これらの規定は実質的に「不同意堕胎」(ときどき事件では見られる)以外は事実上見ることができません(戦後の判例を検索しても、堕胎の罪で最高裁まで争われた判例は10件あるかないか)。

 ただそれでも日本において堕胎罪(単純堕胎罪)が置かれているのは、それでも時々発生する「不同意堕胎」の事件の「基本類型」はあくまでも堕胎罪(単純堕胎)であるという事情で(刑法の規定上、不同意堕胎等は、単純堕胎の特殊ケースという扱い)、単純に刑法を改正すると解釈がおかしくなるという問題が一つあります。

 もう一つは、堕胎行為を罪として刑法に明確に規定することで、殺人・傷害(暴行)の場合と「対象によって適用される罪が異なる」ことを明確にする趣旨があります。

 ※ こうした学問上の「解釈論」が残るため現在でも置かれているもので、戦後もふくめておよそ争われた類型ではないので、判例も何も探すほどしかないという状況です。

yukispica