劇場公開日 2024年3月22日

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「やはり宗教観だけではないと感じる」コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0やはり宗教観だけではないと感じる

2024年3月22日
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鑑賞方法:映画館

普通の人物が闘士になっていく物語が好きだ。平凡な生活を送っていたのにひょんなことから社会の矛盾に気づき闘いに目覚めていく。ヒーローもののようにある瞬間に変身するわけではない。変化は徐々に。いつの間にか闘いの前線に立っていたりする。そんな物語が好きだ。
実は本作がそんな物語になると思っていたわけではない。現代にいたってもいまだに中絶を禁止しようとする動きがアメリカにあることに少し関心があったから。宗教観だけじゃないだろと。カウンターカルチャー的な意味合いが込められた映画であれば、闘士に育っていく物語になってもおかしくないよな。予想していなかった自分を叱りたい。
中絶ができない社会とは女性が選べない社会である。改めてそんなことを教えてくれる映画だった。主人公のジョイの夫は弁護士だから、当時の男性の中では理解がある方だったのだろう。それでも、冷凍料理が続くことに嫌味を言うし、妻が家事以外のことをすることを快く思わない(浮気を疑っていた感じもしたけど)。「女性でも望めば何にでもなれる」という発言が建前すぎて白々しい。個人的にはとても象徴的なシーンだった。
そんな中、自分の命を守るため中絶という道を選んだ彼女が、中絶を通して貧困や男からの暴力に苦しむ女性を助けようとするのは当然の流れかもしれない。やはり特別な才能があるからそんな闘士になるというわけではない。その時代の矛盾を感じる状況にいれば誰でも闘士になりうるということなんだろう。少し駆け足になったが清々しい終わり方だった。ジェーンの活動は終わりを迎えたが、本当の意味で終わってはいない。そんなことが伝わってくる、いい映画だった。

kenshuchu