劇場公開日 2024年12月13日

「最初から最後まで苦境のただなかにあるんだけど、なぜか明るさを失わない一作」太陽と桃の歌 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最初から最後まで苦境のただなかにあるんだけど、なぜか明るさを失わない一作

2025年1月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

日本でも農業の苦境をたびたび見聞きすることがあるけど、農業国のイメージもあるスペインでも農業経営者は決して楽観的な状況ではない様子。一家の全員が本作の主人公といっても過言ではない、カタルーニャのソレ家もまた、家業の桃農園経営を維持できるかどうか、という瀬戸際にあります。

祖父は土地の権利関係をあいまいにしたままだし、妹夫婦はソーラーパネルの方が実入りがいいんじゃ、と勝手なことをいうし、長男は反抗的だし……、と一家を束ねるキメット(ジョルディ・プソル・ドルセ)の顔色と機嫌はどんどん悪くなってきますが、それも無理ないよねー、と思わず同情してしまいそうになるほど問題山積、前途多難な状況。

そんなお先真っ暗な農園経営見ても心が沈むだけなんじゃあ……とも思ってしまいそうだけど、土地柄なのか降り注ぐ陽光のせいなのか、なぜか映像も人物も明るさを失いません。大人たちはせっせと収穫に励むし、子供たちは農園のあらゆるもの、場所を遊びに変えていきます。そしてたとえ口論していても食事の時は楽しく食卓を囲む一家。気分がどうこう以前に、「生きてる!」って感触が画面から伝わってきます。

魔法も奇跡もない世界で展開するごく普通の生きている人々の物語。結末に彼らが向けるまなざしの先に何があろうと、このひと時の輝きが忘れられなくなる作品でした。

yui