「家族の中で孤立していく男は、自分の不器用さを環境や人のせいにして棚上げしてしまうもの」太陽と桃の歌 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
家族の中で孤立していく男は、自分の不器用さを環境や人のせいにして棚上げしてしまうもの
2024.12.19 字幕 アップリンク京都
2022年のスペイン&イタリア合作の映画(121分、G)
太陽光パネル事業によって紛糾する農家一族を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はカルラ・シモン
原題の『Alcarrás』は主人公ソレ一家の住む町の名前のこと
物語の舞台は、スペインのカタルーニャ地方にある田舎町アルカラス
そこには地主ピニュール(ジャコブ・ディアルテ)から土地を借りて桃農園を営んでいるソレ一家がいた
農園を開いたのは祖父のロヘリオ(ジョゼ・アバット)で、今では息子のキメット(ジョルディ・プジョル・ドルセ)が中心になって経営をしていた
農園の手伝いには、キメットの妹ナティ(モンセ・オロ)の夫シスコ(カルレス・ガボス)や、キメットの息子ロジェー(アルベルト・ボッシュ)が加わっていた
キメットにはもう一人の妹グロリア(ベルタ・ピポ)がいたが、彼女は別の場所に住んでいて、キメットとの仲は最悪だった
ある日のこと、夏までに土地を開け渡すように言われた一家は、ロヘリオが交わした契約書を探し始める
だが、口約束で交わしたもので、先代はもうおらず、証明するものがなかった
そこでピニョールは「パネル事業の管理者」を打診するものの、短気で頑固なキメットは聞く耳を持たずに暴力的に反発してしまう
その後、ピニョールはシスコと話を進め、彼はその方向性に同意する
だが、キメットはそれを不服としてシスコと喧嘩沙汰になってしまう
ナティは呆れ、キメットの妻ドロルス(アンナ・オティン)も悪化する家族関係にため息を漏らしていた
映画は、この大人たちの物語と同時に、キメットの末娘イリス(アイメット・ジョウ)とナティの双子の息子ペレ(ジョエル・ロピラ)とパウ(イザック・ロピラ)がはしゃぐ様子が描かれる
また、キメットの長女マリオナ(ジェニア・ロゼ)は、友人たちとダンスチームを組んでいて、農園を手伝う気はさらさらなく、反抗期の真っ只中にいたりする
物語は、キメットの一人相撲から徐々に悪化する様子が描かれ、シスコ一家のみならず、自分の家族からも距離を置かれる様子が描かれていく
ロジェーもだんだん手伝わなくなり、友人たちとナイトクラブで朝帰りをしたりするし、マリオナもダンスをやる気が失せて、パーティーをボイコットするようになってしまう
挙げ句の果てには、農園の強行取り壊しが行われてしまい、キメットが呆然とするシーンで物語は終わりを告げる
太陽光パネルに関しては、詐欺に引っかかってるなあと思いつつも、農園の収入悪化から避けられない事態になっていた
パネルによって、この土地の温度が上昇し、農作物は育たなくなってしまうので、この事業がこの土地で行われた以上、切り替えざるを得ない
とは言え、パネルがどのような影響を与えるかを知っているのは先進国の一部の人だけなので、このような方法で痛い目を見るのはここだけではなかったりする
映画は、ほぼ演技素人が集まって家族を演じているのだが、その自然さには驚くばかりだった
イリスが奔放すぎて、モザイクが入りまくるのだが、これはまあ仕方のないことかもしれない
いずれにせよ、家族がおかしくなっていく過程を描いているのだが、頭が回らずに短絡的な思考しかできないと、いずれは全員を敵に回すことになってしまうということを描いていた
パネルの是非よりも、地主に対する態度とか、一緒に働いている人への敬意などは全くないので、いずれは破綻した一家なのかもしれない
劇中で子どもたちが歌う歌が印象的で、彼らがあの歌をチョイスしてしまうのも流れのひとつなのだろう
船頭は常に高いところから状況を見て、自分を支えてくれる人に敬意を抱かなければならないと思うので、粗暴な言動で高圧的になっていないかを振り返る意味では「鏡」のような作品なのかもしれません