「オードリーの類まれな人生を通して自分の人生にも向き合える映画」オードリー・ヘプバーン まるたんさんの映画レビュー(感想・評価)
オードリーの類まれな人生を通して自分の人生にも向き合える映画
オードリーは私が物心ついたころにはもう既に一線を退いていて、親の話やマスメディアを通して得る彼女についての知識は「非常に美しい才能ある女優」という程度だったのですが、学生の頃に街のポスター屋でみかけた『麗しのサブリナ』の頃に撮影されたと思われる、彼女の当時の宣伝用スチール写真のポスターのあまりの美しさに圧倒され、思わずそれを購入したのがファンになった始まりでした。彼女の美しさはとにかく圧倒的で、金髪碧眼の美人が側にいても、とにかくオードリーに目が行き、金髪碧眼美女が地味に見えて可愛そう、と思ったものでした(今思えば大きなお世話感がありますが…)
それからはレンタルビデオや数々の書籍や写真集などで彼女についての知識を深め、それと同時に50年代当時の俳優達や監督にも詳しくなっていき、当時20歳そこそこだった私はそれで得た知識を当時の大人達に披露して感心されたものです 笑
このドキュメンタリー映画は、オードリーの長男さんのショーンさんが関わっているだけあって、長年しつこくファンやってる私から見ても、彼女の類まれな人生を非常に簡潔に見事にまとめられていると感じました。
とにかく構成が見事です。既に両親との複雑な関係に悩んでいた幼少の頃から悲惨な戦争の体験時期(書物では飲まず食わずで数日一人で地下に潜んでいた話や、たまに手に入った食べ物に蛆が沸いているのを見て「久々にタンパク質が摂れる」と喜んだというような話もあるのですが、そのようなエグい話はこの映画では特に触れられず)から、皆が観ててワクワクするであろう、スターダムを駆け上っていく華やかな女優期、家族第一を優先して映画界から離れ、そのうち自身の名声を大いに生かしてユニセフの活動にまで大貢献する後年期で構成されています。
個人的にこの映画が素晴らしいと感じたのは、特に後年期のオードリーです。
映画内のオードリーの友人の証言にもありますが、友人の子供が「オードリーは何故映画スターなのに、もっとそれらしくしないの?」と不服そうに言ったという箇所。
これはオードリーの次男のルカさんによる話でも出てくるのですが、ルカさんは子供の頃、オードリーが映画スターだったことは全く知らず、たまにマスコミやパパラッチにつかまってオードリーのことを聞かれた時、「何言ってるの?僕はドッティ(←当時のオードリーの旦那)夫人の息子だよ」と言っては、彼らから大笑いされたそうです。家ではとにかく話が面白いドッティが主役で、オードリーは彼の妻の座に徹していたそうで、ルカさんのオードリーの女優時代の知識については、いまだに一般の人たちとそう変わらないということでした。
あと子供だった当時、ルカさんが友人達を自宅に招く時、その友人達の親達はここぞとばかりにオードリーが如何に素晴らしく華やかで美しい女優だったかを子供たちに説いたそうです(いや、これについては私も同じ立場なら絶対鼻息荒くそうしますよ)。
しかし当日招かれたルカさんの友人達は、オードリーがあまりにも普通なことに拍子抜けしてしまったそうですが、それと同時に素のオードリーにすぐ好感を持ち、あっという間に親しくなってしまったそうです。私はこのようなことにオードリーの本当の凄さを感じます。
ハリウッド黄金期に第一線で成功を収めたスターで、このようなエピソードを持つスターがいるでしょうか。それこそ、スターofスターです。
あと晩年期ですが、書物によれば彼女が末期の癌を患って最後の数週間をスイスの自宅で過ごした時、彼女の病状では彼女の態度次第では周囲が地獄化しかねない状況だったにも関わらず、彼女自身の姿勢と周囲に対する思いやりと愛によって、そうにはならなかったそうです。その書物を読んだ当時、私はこれほど完璧な人生の幕引きがあるだろうかと思ったものです。
そのような状況下では、正直この映画を観にくるような観客を泣かせるエピソードや構成なんかいくらでもあったと思うのですが、この映画ではそこまでその部分には触れず、いい意味で非常に簡潔にシンプルな形で終わっていました。
私はここに長男さんのショーンさんの想い、またこの映画に関わった人達の想い、更に彼らにそこまで想わせるに至った、オードリーという人の強い愛と魅力を感じます。
「これはただ単にオードリーを賛辞したり、偲んで泣くような映画ではありません。人それぞれ困難なことや辛いことはあるでしょうが、類まれなる彼女の人生を通して、是非御自身の人生も感じとって下さい。そこから御自身に対して出来ること、それから人に対して出来ることを見つけていって下さい。くよくよしてても仕方ない、とにかく前に進みましょう!」
…文才も表現力も乏しい上、映画の解釈が間違っていたらこれまた申し訳ないのですが、オードリーのような方とは遥かかけ離れた小市民な人生を送る私が、曲がりなりにもこの映画から感じ取ったことなのでした。
この映画を観れて、本当に良かったと思います。それまで映画や書物などでしか知らない、私にとってはある意味「おとぎ話の人物」であったオードリー。
彼女の辛い体験や高貴な人柄、人々に対しての素晴らしい愛もひっくるめて共感しながらも、どこか他人事のように「だって彼女は特別な人だし」「所詮自分とは全然違う世界の人だし」と思って彼女をディズニー映画の登場人物のように、自ら額の中に閉じ込めて眺めていたような私でしたが、この映画を観てからは、生身のオードリーが、私の傍らにいて見つめてくれているような感覚になっています。
日常の些細な仕事や生活面で、この映画を観たことで私の中に宿った『マインド・オードリー』がいつも優しくツッコミを入れてくれます 笑
これから私はずっと彼女の存在を、精神を、愛を常に感じて生きて行くことが出来そうです。
時空を超えて遥か遥か遠いハリウッドスターだったオードリーを、ここまでいい意味で身近に感じさせてくれたこの映画を作って下さった方達に、そして何よりオードリー・ヘプバーンその人に、深く深く感謝致します。