劇場公開日 2022年5月6日

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「あのとき何があったのか、を寒気とともに実感できる一作」チェルノブイリ1986 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0あのとき何があったのか、を寒気とともに実感できる一作

2022年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ウクライナ戦争で再びその存在が注目を集めたチェルノブイリ(チョルノービリ)原発で、1986年に発生した史上最悪の原発事故に立ち向かった消防士達の勇気と犠牲を称える作品です。

同じ原発事故を扱った作品としては、HBO制作の『チェルノブイリ』(2019)というドラマがあり、事故の全体像を知る上ではむしろドラマ版の方がおすすめなんですが、本作は消防士やその知人達といった個人レベルの視点に重点を置いているため、より状況の切実感、緊迫感が伝わってきます。

前半のドラマ部分がやや長いと思っていたのですが、一旦事故が起きてしまうと、消防士は皆同じ消防服を着て顔は泥だらけになるため、ほとんど誰か分からない状態になります。しかしドラマパートで主要人物の掘り下げが丁寧になされていたため(それでも主演二人のパートはちょっと長いと思ったけど)、消火活動の過程で傷つき、斃れる隊員達一人ひとりが自然に判別できるようになり、そして彼らの境遇に胸が塞がるような気持ちがかき立てられます。

既に東日本大震災を経験し、放射能汚染に対する恐怖心を肌で感じてきただけに、本作の消防士達がほとんど何の防護措置も講じないまま原子炉に突入していく姿には本当に驚愕し、映画である事は分かっていても「引き返して!」と思わず叫びそうになります。

ロシア政府が制作に関与しているからか、事故原因の追及や、政府批判といった要素は非常に薄く、災害パニック映画に近い内容となってはいるものの、ここまでの大作を作り上げたダニーラ・コズロフスキー監督(兼主演・製作)とそのスタッフの熱意は素晴らしいと感じました。

yui