劇場公開日 2022年9月1日

「新世代サスペンスホラーの潮流が日本にも」この子は邪悪 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5新世代サスペンスホラーの潮流が日本にも

2022年8月30日
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鑑賞方法:試写会

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2010年代後半の米国発ホラーの新たな潮流を好ましく思っていた。具体的には、デビッド・ロバート・ミッチェル監督の「イット・フォローズ」(2016)、ジョーダン・ピール監督の「ゲット・アウト」(2017)と「アス」(2019)、アリ・アスター監督の「ヘレディタリー 継承」(2018)など。共通するのは、異形のクリーチャーや人間離れした猟奇殺人鬼が次々に登場人物を派手に虐殺していったり、突然の大音響で驚かせたりするような、根っこの部分はアトラクションのお化け屋敷から変わらない前時代的な怖がらせ方に頼るのではなく、観客の想像力をじわじわと刺激する状況や出来事を効果的に積み重ね、抑制された演出と印象的な映像で提示するスタイルだろうか。

「この子は邪悪」は、そんな米国発の潮流に呼応したかのような新感覚サスペンスホラーだ。TSUTAYAのコンテストで2017年に準グランプリを受賞した企画だそうだが、片岡翔監督は脚本作りに4年、30回以上の改稿を重ねたとか。練りに練られた脚本は無駄がなく(この内容を100分に収めたのも見事)、たとえば町で多発する奇妙な精神疾患風の人々の症状にしても、しっかり伏線になっている。

演出手法などには洋画ホラーの影響があるとしても、日本人になじみ深い死生観や、肉体と魂の関係、輪廻思想にもつながるような要素を織り込んだのも、よりリアルな恐怖を感じさせるポイントだろう。傑作「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で蒔田彩珠とダブル主演した南沙良が、本作でも好演。ホラーファン以外にもおすすめしたい一本だ。

高森 郁哉