劇場公開日 2022年4月22日

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「不思議で美しい世界」カモン カモン 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0不思議で美しい世界

2022年8月17日
PCから投稿

見たことないようなきれいな白黒映画。
解像度が高い。景観も構図もいい。

お熱いのがお好き(1959)が白黒なのはジャックレモンとトニーカーチスの女装の見た目のどぎつさを和らげる目的があった──とは有名な話だが、今の時代、映画を白黒にするのはなぜだろう。

あんがい、かっこつけやノスタルジーなどの軽薄な理由も多いが、この映画の白黒には必然性を感じた。やはり「どぎつさを和らげる目的」があったと思う。白黒によって気分の散らかったジェシーくん(Woody Norman)が点景としておさまる。もしカラーだったら未来のミライのくんちゃんに対して感じたようにむかついてしまったかもしれないw。

ジェシーくんは多動症のようだが、その不安定さも含め、まるごと受け容れようと奮闘する大人が描かれる。

達人の映画だった。撮影も演技者も演出もさることながら、人物の大人っぽさに圧倒される。
かえりみて、わたしたちは、どんだけ子供っぽい世界に住んでいるのだろう──と思ってしまうほど、成熟した人々が描かれていた。

ジョニー(ホアキン・フェニックス)はラジオ向けドキュメンタリー製作のため各地を転々としているが、妹のヴィヴ(Gaby Hoffmann)から息子ジェシーの世話をたのまれる。

ジェシーとの交流を描きつつ、ジョニーの取材活動である子供たちとのインタビューが挿入される。

映画撮影用に選っているとはいえ、そこ(インタビュー)には道理や知識に暗い子供は出てこない。
まるで美しい世界であるかのようにリッパな発言が返ってくる。

賢明な子供らときれいなモノクロの世界。
それと対比されるのが多動症のジェシー、認知症の母、パラノイアのポール(ヴィヴの夫/ジェシーの父)、ジョニーとヴィヴの確執など。──いわば子供達=美しい未来に触れながら、じっさいには混迷と困難にまみれるジョニーの葛藤が映し出される。

映画が伝えたいのは相手を理解すること。
気分が散らかったジェシーくんを通じ、かれがなぜそうなのか、原因をじぶんのなかに見ることができる“大人の成長”を描いている。
ひるがえって、多様性が進む社会(不思議な美しい世界)で、まったく理解不能にみえる人を知る努力をしよう──とこの映画は言っている。(と思う。)

Claire A. Nivolaという人が書いた「Star Child」という絵本をジョニーがジェシーに読み聞かせするシーンがある。
「Star Child」は少年の姿で地球に降り立った宇宙人の話。
内容が映画と重なる。

『最初は、手足を動かしたり、直立したり、新しい体の使い方を覚えなければなりません。走ること、手を使うこと、音を出すこと、言葉を作ることを学びます。
少しずつ自分のことができるようになっていくでしょう。

ここは静かで平和な場所ですが、あちらでは色彩、感覚、音が絶えずあなたを包み込みます。植物や動物など、想像もつかないほどたくさんの生きものに出会えます。
ここではいつも同じですが、あちらではすべてが動いています。すべてが常に変化しているのです。

あなたは地球の時間の川の中に飛び込むことになるでしょう。
喜びと恐れ、喜びと失望、悲しみと驚きなど──学ぶべきこと、感じるべきことがたくさんあることでしょう。
混乱と喜びの中で、あなたは自分がどこから来たのか忘れてしまうでしょう。

あなたは成長し、旅をし、仕事をし、もしかしたら自分の子供を持つかもしれません。

何年もの間、あなたはその、幸せで悲しく、満たされて空っぽな、常に移り変わる人生の意味を理解しようとするでしょう。

そして、自分の星に帰るとき、その不思議な美しい世界(strangely beautiful world)に別れを告げるのは難しくなっているかもしれません。』

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津次郎