「登場人物が全員温かい映画があってもいい。」ケイコ 目を澄ませて momokichiさんの映画レビュー(感想・評価)
登場人物が全員温かい映画があってもいい。
話としては耳が聞こえない女性が、ジムの会長やコーチ、周囲の人々に支えられながらボクシングに打ち込む話。大きな起伏も伏線もなく、淡々と静かに進む。それ故に「退屈」「つまらない」という感想も抱いたのは正直なところ。
でも、この映画の良さというか存在意義はそこじゃない。
冒頭のコーチとのミット打ちのシーンに既にそれは現れていた。コーチが耳が聞こえないケイコのために小さいホワイトボードに「コンビネーションミットやろう!」と書いて伝える。ミット打ちの間も一言も発さず一生懸命身振り手振りだけで教える。あー、このコーチいい人だあ、というのが画面いっぱいに伝わってくる。(末尾に!を付ける時点でもう。)
これが全編通してこうなのである。三浦友和扮するジムの会長も、仙道敦子扮するその奥さんも、もう一人の厳しめのコーチもケイコのためにしらみつぶしに移籍先を探したり、同居する弟もそのハーフの彼女も、心配して試合をみられないお母さんも、応援する職場の同僚も、ケイコが乗り気でない対応をしてしまった移籍先候補のジムの担当者も、顔がボコボコになった対戦相手も。。
みんなどこか優しく温かい。手話やジェスチャーが多く静かに進むことも相まって、優しく穏やかなトーンが全編をまとう。
殺伐とした世の中、こういう一服の清涼剤のような映画があっていい。
人を信じることができる。この映画の存在意義はここにある。
コメントする