劇場公開日 2022年12月16日

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「物語上の起伏はあえて抑制している感があるけど、最後まで目を離せない一作」ケイコ 目を澄ませて yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5物語上の起伏はあえて抑制している感があるけど、最後まで目を離せない一作

2023年2月7日
PCから投稿

冒頭の練習場面、ミットとグローブが接触する音が徐々に独特のリズムを刻み始めると、思わず座りながら身体が動きそうになります。この引き込まれるような導入は見事。

主人公小河ケイコ(岸井ゆきの)は耳が聞こえないというプロボクサーとしてはかなり厳しいハンデを抱えていますが、その努力をことさら強調するでもなく、物語は淡々とした練習と日常を描いていきます。舞台も古びたボクシングジムとケイコの自宅、そして彼らの日常感溢れる生活圏内にほぼ限定されているため、物語と同様、控えめな映像表現でありますが、とても丹念な描写です。

ケイコを中心とした登場人物の日常を描きつつ、コロナ禍を含め、少しずつ生活に入り込んでくる変化に、各々ができる範囲で対処していく、そんな物語です。だからといって決して退屈させる内容ではなく、日常描写のなかに一定の映像的緊張感を保っている三宅監督の演出力は見事。ただ起伏の激しいドラマや壮大な謎解きなどを期待すると、ちょっと意外に感じるかも知れません。

もちろん主演の岸井ゆきのの演技は素晴らしいんだけど、『コーダ』(2022)でも話題となった”当事者キャスト”について、製作側がどのように捉えているのか気になるところでした。

パンフレットは売り切れの映画館が多いそうなので、もし在庫があればぜひ購入をお勧めします!

yui