「勢いのある女優の最新作」ケイコ 目を澄ませて po.bacardiさんの映画レビュー(感想・評価)
勢いのある女優の最新作
「愛がなんだ」で衝撃的なブレイクを果たし、出演作が続く、映画ファン期待の女優のひとり、岸井ゆきの最新作。
彼女は美人でもグラマラスでもなく背も低い。今年、「やがて海へと届く」という大愚作に出演していて心配していたが、今作はキャリアベストに近い作品となった。知り合えば知り合うほど、もっともっと知りたくなる女性の魅力に満ちている。
脇役もみごと。「線は僕を描く」に続き三浦友和が素晴らしい。いつの間にこんな優れた俳優になったのか。
生まれつき耳の聞こえない主人公が、ボクシングという舞台に昇ったり降りたりする物語。光の使い方がうまく、聴覚を意識した音の使い方も絶妙。
健常者への警告も的確。コンビニで店員に「ポイントカードお持ちですか〜?」と何度も不審げに言われ、慌ててマイバッグを取り出すプレゼンスをするシーン。コミュニケーションの断絶。他にも細かい演出が秀逸。耳が聞こえないとは、こういうこと。
16ミリフィルムの質感も、豊かに描かれる荒川沿いの風景も、まるでヴェンダースのショットのようだ。
唯一、気になった点は主人公に聴覚障害者を採用できなかったところ。健常者の岸井さんを採用することで、彼女の演技性の素晴らしさはお披露目することはできたのだが、このあたりが欧米映画に追いつけないゆえんかも。
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