劇場公開日 2022年4月16日

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「複数の視点が存在する映画。若干時間が短めなのが惜しいですが、おススメ。」メイド・イン・バングラデシュ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0複数の視点が存在する映画。若干時間が短めなのが惜しいですが、おススメ。

2022年5月7日
PCから投稿

今年134本目(合計408本目/今月(2022年5月度)11本目)。

実は、この映画は大阪市では2週間遅れだったのですが、前々から気にしていて、この映画を見たいがために、他の映画館を蹴って(別にダブルブッキングしていたわけではない)シネリーブル梅田さんまで行ってきたわけです。

この映画は複数の論点が存在するかと思います。

 (1) いわゆるブラック企業の論点(→実は(3)と関連する)
 (2) バングラデシュの男女同権思想(フェミニズム思想)が(日本から見ると)無茶苦茶
 (3) バングラデシュ全体の行政の腐敗の論点
 (4) そして、「彼女たち」が作っているものを輸入している日本に暮らす私たちが、何ができるのか、というところ

 なお、一部に日本でいう労働基準法に相当する法律の知識を要求されるところはありますが、説明はありますし、一般的な日本の理解で足りるようになっています。

 (1)についてはもう書くまでもなく無茶苦茶、(2)は正直なところ、日本は「概ね」男女同権思想は達成できているとは言われますがまだまだ上位の国はあります。とはいえ、「概ね達成されている」とされる日本から発展途上国の「男女同権思想のなさ」を論じたり批判することは簡単ですが、この映画に代表されるように、宗教が絡んでくるケース、国の制度とも絡んでくる場合、一概に簡単に批判はできません。批判するのは自由ですが、「それじゃ改善するから経済援助してくださいよ」と言われても、なかなか困ってしまうからです。

 そして(3)の問題です。映画は多少短く100分前後という短さですが、理由もあります。この映画を最初見ると、「バングラデシュの行政自体も腐敗している」(=主人公たちが出した労働組合の届け出を適当に処理している)という批判は成立しそうです。ただ、一概に言えない事情がバングラデシュにはあります。

 バングラデシュは、繊維産業が盛んでそれを輸出していることで成り立っている発展途上国です。そのため、それを前提にして色々な国が工場を置いています。もちろん、国(ここでは、バングラデシュ)が定める最低賃金(に相当する概念)までは進出する会社でも保障はされますが、それ以上のことは会社と国の話です。そして、バングラデシュ等、繊維産業を前提とした輸出産業で成り立つ国に会社を置く(他国籍の)企業は、最低賃金(に相当する概念)しか保証しないのが普通です。そうしないと、そうした国から輸出して売る、という方針自体が成立しなくなるからです。

 すると、バングラデシュの国(映画内では、労務省、という扱いで出ますが、結局は国全体の問題)として見たとき、国から他国籍のそうした「低賃金を前提にして多くの人を雇う企業」に対して、「もっと賃金をあげるように」ということ自体は自由だし、一見すると「国と企業」であれば国が勝てそうに見えます。しかし、企業からすれば、「そんなに国が言うほど出さなきゃいけないなら、撤退したほうが良い」という話になると、国の経済がまわらなくなるという悪循環が発生します(=換言すれば、日本でいう生活保護法や失業保険(に相当する概念)にかかる費用が増加してしまう)。このため、「国としても何ともしがたい」部分も当然あるし、映画内でぼかされている部分も、結局はここに帰着されてしまいます。

 そして、(4)の部分です。日本ではここ数年「適正報酬取引」(フェアトレード)という考え方が、特にコーヒー豆を中心として考え方が浸透しているところはあります。一方でこの映画の通り、衣服が「メイド・イン・バングラデシュ」で売られていることもまた事実です。
このとき、(広義な意味での)ボイコット、つまり「バングラデシュのように、男女同権思想が乏しく、賃金体系が劣悪な国のものは買わない」という考え方は「一応」成立はしますが、実際には意味はありません。
バングラデシュの全ての衣服がそうであるという保証はどこにもありませんし、仮に(日本のすべての消費者が)ボイコットしても、結局はどこかに返品されるだけで、その分彼女たちの賃金が上がるわけではないからです。むしろ、そうした行動は、「ただでさえ、映画内で描かれている、かなりギリギリな生活をしている国」の実情をさらに悪化させてしまう恐れすらあります(悪循環の論点)。また、そのこと「のみ」をもって日本が主導的にボイコットに出ることも実際無理だし、国同士の関係を悪化させてしまうことにもなるからです(そして、日本でそうした活動が広まれば、日本にも関係者がいる以上、「直接の」当事者ではない彼ら彼女らがパッシングを受けるという不当な結果を招くことになる)。

 正直、この部分はもう個人や日本単独でどうこうなるものではなく、国連レベルで話し合うべき部分なのかな…というところです。いわゆるSDGsの中にも、このこと(最低限の生活レベルの保障と、その向上につとめること)は含まれているからです。

 100分ほどの映画ですが、実に考えるところが多い内容です。
バングラデシュはもとより発展途上国が発展するように、日本に技能・技術を学びに来る人たち(いわゆる、実習技能性制度)等が適切な制度のもと守られ学習し、世界各国が豊かになることを願ってやまないところです。

yukispica