劇場公開日 2022年4月29日

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「何が実話で何がフィクションなのかわかりづらい…。」手紙と線路と小さな奇跡 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5何が実話で何がフィクションなのかわかりづらい…。

2022年4月29日
PCから投稿

今年122本目(合計396本目/今月(2022年4月度)32本目)。

韓国映画といえばシネマート。

さて、こちらの映画なのですが、ここの特集・紹介にあるように「両元駅」がつくられたこと、それ自体は実話であるようです(映画内でもラストに紹介される)。ただ、どこまでが実話でどこまでが作話の範囲なのかがはっきりとせず、しかもパンフレットもない(売り切れではなく、そもそも「存在しない」の扱い)のため、どうにも調べるのが難しいです。

他の方も書かれている通り、映画としては映画内での「時間軸の流れ」としては大きく2つあり、一方はファンタジー世界のような「ありえない世界」を描くようなものなので、さすがにそれも含めて「実話」というのは無理があるんじゃないか…と思えます(よって、この解釈から、全部が実話ではなかろう、という点は理解できる)。こうした部分はあまり気にはしませんが、この映画は公開前から「実話に基づく」ということをウリにしていた部分があり、「どこまでが実話でどこまでが作話か」かというのがまるではっきりとせず(まさか、駅が作られた、以外は全部作話、ということはなさそう)、さらに混乱を生じます。

うーん…。今週(29日)の週としては、韓国映画という枠ではとても期待はしていたのですし、内容として支離滅裂でもないのですが、事前の告知として「実話に基づく」とする以上、何がどうなのかよくわからず、ちょっと面食らった部分はあります。

さらに、他の方も書かれている通り、明確に「観客の涙(感動)を誘うようなシーン」があるのも確かで、これもこれでどうなのか…(それで映画の「傷」が隠されるわけではない)という印象です。もっともこの部分は「映画の個々作品を実話ベースとしてみるかみないか」より「感動・感情移入を主体として見るか」という個別の考え方に入ってしまう部分があるので、減点はしづらいです(あって0.1程度?)。

採点は下記のようにしました。

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 (減点0.3) ここの特集・予告でもわかる通り「(大統領に手紙の趣旨を理解してもらえるように)正書法の学習…」という内容は確かに出ます。ただ、映画内では「誤字脱字が多い」という扱いで、「トッポギ」を書いてみてよ、というような扱いです。一方で主人公は理系(高校で理系文系という観点も微妙ですが、あえていえば理系の子と解するのが妥当)の子が、韓国の大衆食文化の「トッポギ」を書けない、というのはかなり不自然です。

 一方で、韓国では「朝鮮語(韓国語)の正書法」というのは何度も改定されています。この映画の舞台となった年も、さえです。韓国語はもともと、英語なども含めて韓国語で書くというルールですし、(当時は)漢字文化という概念も希薄でした(国をあげて漢字を排除していた)。そのため「分かち書き」に関するルールが肥大化して、これを整理するために何度も何度も「正書法に関するルール」は変わっています(北朝鮮も同様)。

 ただ「誤字脱字」と「正書法にのっとっていない」は明確に異なる概念であり、どちらが正しいのが微妙です(どちらにも取れるし、上記通り、「トッポギ」が書けない、というのは想定がしづらい)。

 (減点0.3) 日本・韓国は憲法の部分でかなり多くの部分が似ています。その中で「請願権」というものはどちらにも定められていて、それをうけて「請願法」という概念ができたのも両国同じです。ただ、韓国の請願法が全面改正されたのはこの映画の舞台となる1988年よりも後の2005年です。

また、「駅をつくって欲しい」という請願であれば、例えば日本でいえば「関係する行政庁に出せ」ですから、国土交通省(の、各地方の局)に出すのが普通です。それは常識論でもわかる範囲です。韓国でも、大統領に手紙を出すことは自由ですが全て読んでもらえるとは限りません。全部を扱っていたらキリがないし、そもそも日韓ともに請願法の趣旨・精神として「もっとも身近・関係する行政庁に出せ」という考え方は妥当するからです。

 ただ、この映画の主人公は高校生であり、そのような知識・考え方が及ばずに大統領に延々と(50通を超える)手紙を出したのだろうという考え方は成り立ちます。この部分も説明が少なく「なぜに、実効的効力が期待できない大統領に出したのか?」(=換言すれば、すぐに実効的効力が期待できる地方行政に出さなかったのか?)という点はかなり危ういです。

 ただ、最初にも書いたように、この映画は「どこまでが実話でどこまでが作話か」がはっきりせず、この点の減点幅はかなり微妙です(かつ、まったく無関係な日本に請願書に出したというのとも違うし、一応にも趣旨は理解できる)。
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 ※ (5/1追記) この映画は結局のところ、公開されている映画館も少ない以上に「パンフレットが購入できない」というのも(消極的な意味で)減点対象になるのかな…と思います。上述した通り「どこまでが実話でどこまでが作話かわからない」のを補うのがパンフレッツなのに、それがないのは、ちょっと不親切に思えます(ただ、ないからといってシネマートが勝手に作れるわけでもないし、ここは減点対象にしづらい)。

yukispica