「雰囲気味わえて楽しい」クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男 yudutarouさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0雰囲気味わえて楽しい

2023年8月5日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 この頃はBTSとかYOASOBIとかバカ売れしてる音楽を普段から好んで聴いているから世間一般で流行っている音楽もイイんだろうな、などと何となく思ってたけど、先日何気なくテレビから流れてたミュージックステーション特番見てたら、出てくる音楽のあまりのダサさにやっぱり無理!という気分になった。いや、どこの国だって色んな趣味嗜好の音楽シーンがあるんだろうけど、アラン・マッギーの伝記映画とか見ちゃうと、やっぱりホントにポップミュージックそのものを好きな連中が作ったシーンが映画になるぐらい拡がっている国が羨ましくはなってはしまうよ。
 というわけでこの映画、そんな羨ましいシーンが拡大していく様をポップにテンポよく描いていて、かなり楽しかった。ジザメリもプライマルもマイブラもそれぞれ映画に出来るぐらいの濃いバンドばかりなので、この映画の登場シーンでは物足りなさは当然あるが、伝説的なマイブラのスタジオ籠りなど、なんとなくミュージシャンのこだわりの武勇伝的な雰囲気で捉えていたものが、レーベル側から見たらケヴィン・シールズの所業はホント最悪だなという新たな発見(?)があったりして面白かった。
 あと短いながら強烈だったのはトニー・ブレアのパーティに登場するジミー・サヴィルで、ここで彼の漂わせる醜悪さがなかなか凄くて気持ち悪い。ジミー・サヴィルは芸能界の重鎮だが死後に未成年者への性的虐待などが明るみに出た人物で、ジャニー喜多川みたいなやつ。この映画の時間軸では芸能界、メディアがこぞって彼を庇護していて、映画でも言及されているようにジョン・ライドンのような告発者もいたが、握りつぶされていた。しかし日本と違うのは現在ではちゃんと断罪されて、メディアも誤りを認めていること。この映画でトニー・ブレアと並んで彼を登場させたのは、パンクの精神で音楽の世界に入ったアラン・マッギーが成功した先に見てしまった、ポップシーンを利用だけしようとする政治家や、政治的な利益に寄生した芸能界の象徴とするためだろう。こういうファクターを入れ込んでくるあたりも、映画に反骨のインディレーベル魂を与えていて、作品に相応しかった。もっともここらへんはアーヴィン・ウェルシュの意向が前面に出てるらしいが。
 電車に乗り遅れることでオアシスと運命的に出会うなど、そんなアーヴィン・ウェルシュの創作部分も物語のスパイスとした良い塩梅だし、エクスタシー流行下の狂騒の雰囲気や、レーベル初期のパンクな雰囲気も映像で表現されているなど、アラン・マッギーの映画として楽しむのに申し分なかった。まあ、クリエイションレコードの映画としては、ボビー・ギレスピーをもっとフューチャーしても良いのでは?とは思ったけど。

yudutarou