「PTAの描く世の中の不条理と、一風変わった連中の日常を切り取ってはいるが、自信家のゲイリーと人生にくすぶっているアラナが、正統派青春恋物語をグイグイひっぱっていく。」リコリス・ピザ jollyjokerさんの映画レビュー(感想・評価)
PTAの描く世の中の不条理と、一風変わった連中の日常を切り取ってはいるが、自信家のゲイリーと人生にくすぶっているアラナが、正統派青春恋物語をグイグイひっぱっていく。
何よりも主演二人のみずみずしさがまぶしい。ゲイリーを演じる【クーパー・ホフマン】はそのムッチリボディがどこにでもいる15歳として輝いているし、アラナ【アラナ・ハイム】は【安藤サクラ】的な存在感で、ふてぶてしく不機嫌でもあるがピュアで愛らしい役柄を演じている。
オープニングの二人の出会いから歩きながらの会話でつかみはOK。徐々にアラナがゲイリーに魅力を感じていく様にキュンキュンしてしまうのだ。
中盤、ゲイリーがアラナに電話するシーン。無言でただ息遣いを感じ受話器を握りしめる二人。ゲイリー電話を切ると今度はアラナがゲイリーにかけ直す。さっきの息遣いでお互いに相手が誰だかわかっている(息遣いはキーワードです)。いつもしゃべりすぎの二人にとってこの無言電話のシーンはすこぶる冴えている。何より電話をかける二人それぞれの部屋の雰囲気と照明の演出がしびれる。これはPTAと数多く組んでいる名ギャファー、【マイケル・バウマン】の腕によるものだろう。
『マクベス』、『フォードvsフェラーリ』、『バイス』、『ファントム・スレッド』、『ナイトクローラー』など、照明の妙を存分に味わわせてくれたのはバウマンだ。【トム・ウェイツ】の弛緩した表情さえ味のあるものとなって映し出す。
また、どのシーンも70年代っぽい雰囲気と電球の味わいに満ちており、特にピンボールの店やバーなど、夜の演出が素晴らしい。
車と、走る二人の繰り返し演出も、青春の疾走感を投影していてこれも成功している。
スポーツカーを飛ばす【ショーン・ペン】
ショーン・ペンの暗い背景の中でのバイク
ガス欠トラックのバック運転
ゲイリーが怒りと共に自分で運転してでかける
ティーンフェアへ向かう車内の面々
まぶしいようなハラハラするような、そんな70年代の青春がここにあった。
2022年7月9日追記:
鑑賞後にIMDbを見てみると、いくつかのトリビアがあった。
・ウォーターベッドを売りつける怪しいオヤジを演じていたのがレオナルド・ディカプリオの父親である
・リコリス・ピザとはリコリスのように黒くて平べったい形なので、スラングでLPレコードのことを指す(作中リコリス・ピザというレコード店がありますね)
・アラナがオーディションで発するセリフはウィリアム・ホールデン主演、クリント・イーストウッド監督の『愛のそよ風』(Breezy)で、ジャックとアラナのセリフはこの作品からとられている
・トラックをバックで走らせるシーンは実際にアラナが運転していて、スタントでもCGでもない
その他、 ・テレビニュースでニクソンがウォーターゲート事件についてコメントするシーンとゲイリーが新聞にディープスロート(ポルノ映画の方)の広告をチラ見したりと、当時の社会現象もうまく取り込んでいたのも面白い。ワックスの選挙事務所前で男が監視しているのは『タクシー・ドライバー』を彷彿とさせたりといつものPTAの遊び心も満載だった。