「自己実現と歳の差な恋のゆくえ」リコリス・ピザ とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
自己実現と歳の差な恋のゆくえ
向こう(西欧/西海岸)の自由で開放的空気やラフさを考えると、どれほど意識的か分からないけど、魅力的なアラナという女性キャラクターの思いがけず性を感じさせる描き方によって観客にもまたゲイリーと同じようなヤキモキしたピュアな気持ちを感じさせる(ex.胸)。そして、"成功"している大人ほど思いの儘に支離滅裂/滅茶苦茶でブッ飛んでいて(ex.ショーン・ペン、ブラッドリー・クーパー)、だから"旅路"の果てに真っ直ぐな想いを抱えながら、それをある社会的理由/事柄から隠さないといけない人/"大人"に出会い、その人から「思いやりがある」と言われてハッと気づく本当に大切なもの。成功の尺度は一概に測れないし、ぼくたちは大人ぶってもまだまだ青く居られるのだ、と --- 好きな人と、好きな人のために走れるなんて最高じゃないか!!
現代屈指の名匠ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)とハイムの(MVだけでなく今回は家族総出か!) --- そして言わずもがな70年代との蜜月関係/相性の良さ(ex.『ブギーナイツ』『インヒアレント・ヴァイス』)。きっとPTAにとっての70年代とは僕にとっての90年代のように特別で描かずにはいられないものなのだろう。そして今回のそれはとりわけ真っ直ぐというか、記憶や思い出とともにこの監督の従来の作品とは違った風にピュアネスが見て取れた(ex.ウイングスの後に間髪入れずデヴィッド・ボウイなど遠慮なく名曲だらけな当時の楽曲たちが彩るサントラ)。そして他にも盟友・故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンが主演を務め、音楽は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以降おなじみのジョニー・グリーンウッドと安定かつ最強盤石な布陣と新鮮フレッシュな空気、ブレイクスルーな面々。こんなにも恥ずかしげもなく斜に構えず、ノスタルジアいっぱいでまっすぐな青春映画も撮れたんだな(個人的に大好物なのですが)?ポール・トーマス・アンダーソン監督のフィルモグラフィーで一番好きな作品ではないけど、一番好きな作品のタイプ/ジャンル。
70s当時の音楽やファッション、ヘアスタイル、フィルムライクで特徴的なルックを実現する撮影(本当にフィルムかな)にタイトル文字情報含めた空気や雰囲気…あぁ、愛しい"あの頃"に思いを馳せる。最初から最高で、10代ティーンの甘酸っぱさが目いっぱい詰まっていた!そりゃ誰だって好きな人に、たかが映画のためなんかに脱いでほしくないし、脱ぐ必要なんかない。という意味で、本作途中まで女性の描き方なんかに少し疑問抱いていたけど取れた。背伸びしたり若返ったり"らしく"あるって大変だ。コーラ2杯、あとマティーニで。ジン?ウォッカ?ジン=ウォッカ。自分の知らない世界を知っていそうな年上の人にも惹かれる。彼らが片足を突っ込むのは、嘘だらけ、武勇伝だらけで、虚飾にまみれた常軌を逸するイカれた世界。ウォーターベッドの次はピンボール、商機はあちこちに転がっている。色々なビジネスに手を出しては右往左往いきあたりばったり、すれ違ってはぶつかって迷って走って…。ステキな作品でした。
P.S. あくまでそうした若者目線の作品だからだろうか、マーヤ・ルドルフ、ショーン・ペンやトム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、そしてベニー・サフディなど豪華キャストの豪華な使い方も印象的だった。
ロバート・ダウニー・シニアに捧ぐ(a prince)