劇場公開日 2022年4月8日

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「不変の音楽愛、本物のアーティスト」スパークス・ブラザーズ とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5不変の音楽愛、本物のアーティスト

2022年4月9日
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時代に迎合できず最も"No.1"過小評価されてきた偉大なる兄弟の経た紆余曲折 = 半世紀音楽史

STUDIO → Minor delays "彼らはしょっちゅう終わってる"
ロンの(ヒトラー髭に象徴される)キャラ立ち & ラッセルのスター性、そしてアイコニックな2人の決して変わることのない音楽愛。時代の先を行き過ぎていたために、決して順風満帆なキャリア半生だったわけじゃない。浮き沈みを繰り返し、苦楽を共にしてきたからこその今到達した、むしろ辛苦を味わってきたほうが長いかもしれないくらいの半世紀に渡る道程。そして、そんなドン底でも決して曲げなかった/揺るがなかった、信念にも似た音楽への本物の愛。衰えることのないクリエイティビティ創作意欲と迎合しない一貫した姿勢スタンス。芸術や表現というものを生み出す人たちが必ずといっていいほどぶつかる葛藤への、一種理想主義的かもしれないけど、若く尖ったり本物志向の人たち(他人事じゃない)がいつも追い求めてきた勝利。そんな周回遅れの勝ち=正当な評価を盛り上げる応援と祝祭、手放しでサイコー最高サイコー!

過小評価されている最も偉大な音楽グループについての本作を見て思うのは、ポップミュージックはまだまだ命/人生をかける価値があるってこと!
年齢を言い訳にして恥ずかしながらフランツ・フェルディナンドとコラボしたFFSで初めてリアルタイムで知った者ととしては遅くなってしまったけど入門編としてもウィキペディアより数10倍、数100倍意味のある濃厚かつ親密な時間だった。有名作はじめ数枚のアルバムしか聴いたことなかったけど、一枚ごとの変遷も知ることができる。変化しないこともありだけど、スパークスは間違いなく変化し続けてきたアーティスト性で、だからこそ昔インタビューで「AC/DCのアルバムはどれも同じだから1枚持っておけばいい」的なことを言っていたフランツ・フェルディナンドともマッチしたのだと思う(※AC/DCはスゴいです!)。いや、本当にフランツはラッキーだったな。見終わった今でもまだずっとフワフワしている多幸感と成熟っぷりで、スパークスの音楽に浸っている。そして、一つの結論に至る…。彼らはモーツァルトばりに偉大だ!本当に偉大なアーティストって存命のときには日の目を見ないで、亡くなってから後世再評価の機運高まって…みたいな話はよく聞くけど、スパークスにも通ずるものがある。
兄弟の生い立ちだけでなく、そこから彼らの音楽の独特・不思議な曲の構成などを読み解きもする最初の方のパート。彼らがスポーツマンだったのは意外だったかもしれない。

確かにアメリカというよりイギリス、ヨーロッパっぽい。驚くべきは、何より多作だということ!これだけやってくればヒットメドレー的懐古主義巡業バンドに成り下がるのが世の常なのに、こんなにもコンスタントに新譜を出し続けてくれているのがスゴいし素直に嬉しいかぎり。それらを経て到達した境地こそ、ポップミュージックの核心を突くような彼らの反復愛というシンプリシティ。
それが生かされているのが音楽・原案を担当したレオス・カラックス監督『アネット』。今までジャック・タチ、ティム・バートンと二度映画音楽を担当するはずだった企画が頓挫していたとは知らなかった…。どちらもバンドとしてはツラい時期で起死回生的タイミングでもあったっぽいのに。しかもティム・バートン監督予定だった方は6年もかけて!それは『アネット』が完成して感動もひとしおだったに違いない。
馴染みのお店でコーヒーを飲んだり日課を崩すことなく/習慣を大切にして、未だに毎日ワークアウトからのスタジオでの音楽作り。衰えを知らない探究心を可能にする言葉にしなくても伝わる互いの関係性。創作性があるからこそ、兄弟だからこそ。その互いが互いを支えあって成り立っている奇跡のバランス。これからも200枚でも300枚でもアルバムを出していってほしいなと本気で思える、願いたくもなる。彼らが知らずに種をまいて育ってきた後世のミュージシャンたちへのあまりに大きな影響を加味して、ローリング・ストーンなど雑誌各誌や批評家はもっとこの偉業を褒めちぎるべきだ("偉大なアーティスト"など企画ランクインetc.)!

映画と同じくらい自他共に認める音楽オタクのエドガー・ライト監督もきっと多くのスパークス・ファンと同じく、(79年頃〜?)もどかしい想いを長年にわたってしてきたに違いない。だからこそ、自身が今日最も新作が待たれる映画監督となって、きっと思ったような企画を思った形で作品にできるほどのコントロールを得たこのタイミングで実現した(できた)待望の企画でドキュメンタリーへの挑戦。
随所に見られる彼らしい遊び心も満載で、それは同時にスパークスから来ているものだとも感じる。スパークスの奇妙奇抜かつ謎めいた存在を紐解く上で、エドガー・ライト自ら出演の箇所・インタビューシーンに(ただの)「ファンボーイ」とタイトル・テロップを載せているのが、監督である以前に彼の本作にかける真っ直ぐな想い・姿勢だと思う。嘘のない素直な気持ち。出てくるミュージシャンやファン、有名人たちも負けじと熱量!最後の最後まで小粋なユーモアやセンスを忘れずにいてくれてメチャクチャ楽しめた!!♪

P.S. 『アネット』と並び今か今かと日本公開早く来いと喉から手が出るほど楽しみにしていた本作、遂に見られた!今までのキャリアでロンが腹話術師でラッセルがその人形だったりすることがあったので、今回のポスタービジュアルはその逆になっているのもいいなと思ったし、最後の最後でまさかの文字通り…!

とぽとぽ