「苦しみを乗り越えた先に」ツユクサ 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
苦しみを乗り越えた先に
陳腐な言い方だけど、
長い長いトンネルがあって、このトンネルから抜け出せっこない・・・
そう思った瞬間、ふっと明かりが見えて来る・・・
そんな希望の物語りでした。
芙美さんも吾郎さんも経験した哀しみに必死で闘った日々があった。
芙美さんには「断酒会」に入るほど酒に溢れた日々があった。
(どこでもいい、
(東京から遠い、
(遮断機の音のしない町)
消すことの出来ない記憶は辛い。
(酒で誤魔化せる訳がない)
吾郎さんは奥さんの自殺を乗り越えるために、ツユクサを吹く。
(うつ病の奥さんをどうやっても救えなかった)
たった一枚の平凡は葉っぱから流れる力強いメロディ。
人が希望を託す何か!
人は希望を持たずには生きられない。
航平君には《隕石》そして《宇宙》
妙子さん(江口のりこ)には僧侶ジュンイチロー(桃月庵白酒)
直子さんには(平岩紙)には夫の貞夫さん(渋川清彦)と息子の航平君(斎藤汰鷹)
芙美さん(小林聡美)にはずうっと《航平君》だった。
人間はどの人も乗り越えて来たモノ
(不幸な出来事とか、
(心の行き違いとか、病気とか、)が
それぞれ必ずある。
芙美さんが素敵なのは、
日々の暮らしの豊かさ。
毎日洗濯物にはアイロンをかけ、
裏山の坂道をジョギングで駆け上がり、
一人分の食事にも手を抜かず、
住まいは清潔で居心地良い、
趣味のいい雑貨に囲まれた生活。
「かもめ食堂」2006年
「めがね」2007年
「プール」2009年
小林聡美は洗い立ての白いシャツ、
ショーカット、
ちょっとルーズなパンツ、
無印良品みたいな親しみやすさと上質感がある。
普通なのに普遍。
そんな立ち位置の役者だ。
この映画は珍しくラブシーン(キスシーン)なんかあって、
186.7センチの松重豊と、156センチの小林聡美。
30センチの身長差がとても好ましく映る。
お似合いのカップル。
“ようちゃん、終わりました“
“ちょっとだけ、女の子、しちゃった“
独り言の相手は亡くした息子のようちゃん。
預かったインコが“ようちゃん“と覚えるほど、
芙美ちゃんは毎日呼びかけてるんだね。
ようちゃんと航平君は、どうしても重なる。
“ふみちゃん、ボクがいなくても、
“ふみちゃん、幸せになれる?“
航平君がそう言う。
この映画は名台詞だらけ。
備忘録を兼ねて少し記してみよう。
“お経が私には口説き文句に聞こえた”
“女はどこにいたって、男で世界が広がる“
……………………………………by妙子(江口のりこ)
“女と車の運転は似ている。いずれ衝突する“
……………………………………byバート・レイノルズ
”別れる時はもう、次の恋が始まっている”
………………………………………………byアントニオ・猪木
隕石が人にぶつかる確率は一億分の一。
その確率の隕石が芙美ちゃんの車(軽)に当たった。
“わたし、50前で隕石にぶつかったんです。
“篠田さんにも会えて・・・それだけで、幸せ!!“
そんなことない。
そして芙美ちゃんは一歩踏み出した。
人生にはきっと御褒美がある・・・
一人には一人の苦労
二人には二人の苦労がある。
でも二人はお似合い!
そう信じられる物語りだった。
舞台になった西伊豆の海、
海に沈む夕日、
航平君が貞夫さんを、お父さんとはじめて呼んだ防波堤、
山から望んだ集落と海、
西伊豆の海に、映画に、
心から癒されました。
琥珀糖さん、いつもありがとうございます。私のレビューは基本的にふざけているので申し訳ないです。
こんな素朴な映画。大事件が起こらない映画。
西伊豆の海が目にしみる映画。
それも、良いですね。