「【”心の痛みを少し取って、頑張る。”心に大小の傷を抱えた人たちの再生の物語。 今作は、辛き事を時間を掛けて乗り越え、ゆっくりと前に進む人々を優しく温かい視点で捉えた、人間賛歌の映画なのである。】」ツユクサ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”心の痛みを少し取って、頑張る。”心に大小の傷を抱えた人たちの再生の物語。 今作は、辛き事を時間を掛けて乗り越え、ゆっくりと前に進む人々を優しく温かい視点で捉えた、人間賛歌の映画なのである。】
ー 今作の主人公はふみちゃん(小林聡美)だが、彼女の仕事仲間なおこ(平岩紙)やたえこ(江口のりこ)も、夫と離婚したていたり、死別していたりする。
そして、望遠鏡で星空を見るのが好きなこうへいは、義理の父(渋川清彦)に懐かず、ふみちゃんにべったり。更に密かに”20世紀”と呼ばれる女の子が好きである。-
◆感想
・ふみちゃんはアパートに一人暮らし。部屋には幼い男の子の笑顔の写真が置かれている。(公平に少し、似ている。)そして、何故か”ひまわり断酒会”に通っている。
- これだけで、彼女の過去に起こった哀しき出来事は想像できる。だが、ふみちゃんは、毎日笑顔でタオル工場で、なおこやたえことドーデも良い事を喋ったりしている。
社長(ベンガル)が婚活で行った台湾で覚えた、太極拳の決めポーズを取り入れたラジオ体操が絶妙に可笑しい。-
・そんな彼女がある日石段で出会った長身白髪の男:ゴロー(松重豊:さんと言えば、ゴローだよね。)。交通整理を遣りながら、綺麗な音色で草笛を吹いている。
- で、マスター(泉屋しげる:似合っているなあ。)が開くバーで出会った二人。(もちろん、ふみちゃんはお酒は呑まず、ナポリタン)話が弾んで・・。-
・ゴローにも哀しき過去があった。歯医者だった彼は、鬱になっていた妻の病状が分からず、自死させてしまっていたのだ。
- 松重豊さんの抑制した演技が光る。そして、ふみちゃんとゴローは徐々に距離を縮めていく。-
・たえこを演じる江口のりこさんの演技も絶妙に可笑しい。
- 信号待ちしている時に、ふみちゃんの隣に止まった車の運転席には、亡くなった旦那さんのお墓がある寺の和尚が座っていたり(あれは、気まずいよな。)、ひもパン問題。そして、飼っていたインコが口にする言葉。ー
・新潟に引っ越すことになったなおこ一家との別れのシーン。ふみちゃんは、我が子の様に可愛がっていたこうへいをプラットフォームで、強く抱きしめる。
- そして、ふみちゃんから義理の父親の事を”あんな奴”と言った事に対し、キツク叱られ、新潟に行ってからこうへいが、初めて父と釣りをするシーンも良い。親戚の家を転々とした幼き日々を過ごした義理の父を、飄々とした演技で魅せる渋川清彦さん。良い役者さんである。-
・ゴローとキスをして、久しぶりに酔っぱらったふみちゃんが、息子の写真に掛けた言葉。そして、酔っ払って脱いで投げた両足のソックス。
- 小林聡美さんは、どんな役でも素晴らしく美味いのは、周知の事実であるが、この何気ないシーンもふみちゃんの久しぶりの解放感を表していると思ったよ。-
<ふみちゃんには、もう、踏切の音が聞こえなければ、大丈夫なのだ。ふみちゃんの恋をタイミングよく演出する停電。
随所に盛り込まれる、センスあふれるユーモアも良い。
何処にでも生えているツユクサを肯定するように、この作品では映されるシーン総てが優しく温かい視点で捉えられている。
今作は、辛き事を時間を掛けて乗り越え、ゆっくりと前に進む人間賛歌の映画なのである。>