「作戦名そのものが欺瞞とかw」オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
作戦名そのものが欺瞞とかw
第二次世界大戦における、連合国のシチリア島上陸作戦=オペレーション・ハスキーを有利に運ぶべく、イギリス軍による欺瞞作戦を題材にしたノン・フィクション。
と言う事で、映画では触れられていない背景や、史実とは異なる部分をチラホラ補足。
◆18番の欺瞞作戦
1942年の北アフリカ戦線。ドイツ軍第90歩兵師団の偵察車は、自軍の地雷原で炎上している車両を発見します。車内には焼けただれたイギリス兵の遺体。イギリス兵が持っていたのは「イギリス軍の地雷原の地図」。ドイツ軍エルヴィン・ロンメルの戦車部隊は、地図に示された地雷原を避けてアラム・ファルハへ向け、柔らかい砂漠地帯を通って進軍したため、突破に手間取ったとされています。ロンメルは、この地雷原の地図を信用していなかった、と言う説もありますが、イギリス軍にとっては「諜報活動の成功体験」となりました。
◆パムの正体
パムの写真はMI5の事務職員であった女性のもの。彼女がミンスミート作戦で中心的役割を担っていたと言う記録はありません。ここは演出、って事ですね。
◆親書
問題の親書は、「帝国参謀本部副参謀長」のサー・アーチボルド・ナイから、西アフリカ戦線の「第18軍指揮官」サー・ハロルド・アレクサンダーへ宛てられたもの。この手紙は、実際にアーチボルド本人が書いたそうです。個人の「親書」としての信憑性を持たせるために、イギリス軍を批判する文章を盛り込んだとの事。
◆ミンスミートは消化された
ブリーフケースを回収し精査したイギリス軍は、ドイツ軍に情報が渡った事を確信し、チャーチルに報告します。その電報の文章は「ミンスミートは丸のみされた」。映画では、「ミンスミートは消化された」とチャーチルからの電報が入りましたが、「丸のみされた」と言う報告に対する返しだったんですね。と言うか、「消化された」って言う電報は事実なんでしょうか?ってのはあるけど。
◆ムッソリーニ vs ヒトラー
親書から読み取った機密情報を信じなかったのがムッソリーニ。彼は、依然として連合国のターゲットはシチリアだと考えていました。ゆえに、イタリア軍はシチリア防御線から移動していないんです。これに対してヒトラーはシチリア防御からアテネの防御に戦略を完全に切り替えるのですが、実は、言うほどにシチリアの戦力は減っていないと言う事実があります。
◆オペレーション・ミンスミートの効果
親書の情報を元に、ドイツ軍は①「追加の軍勢」をシチリアでは無くコルシカとギリシャに派遣。②ロンメル元帥をアテネに派遣。③パンター戦車部隊1個師団をフランスからギリシャへ。2個師団を東部戦線からギリシャへ。④機動掃海艇部隊をシチリアからアテネへ移動。
実は、シチリアから減ったのは④だけなんです。と言っても、これは大きかったでしょう。機動掃海艇部隊には、機雷の敷設部隊も含まれるからです。また、欧州戦線に与えた影響として無視できないのは③です。戦車部隊2個師団が東部戦線、つまりは独ソ戦の舞台から消えたんですから。
映画の中で「パム」の正体に気づき、秘密を聞き出しに来たテディ。ヒトラーの失脚を願う、反ナチスのドイツ人が黒幕と見るのも合理性有りでしょうが、それ以上に、当時のMI5内の二重スパイとしては、ソ連のスパイと言う方がリアリティありますけどね。
また何と言っても、「また騙された!」ナチスドイツは、以降、欺瞞作戦に対して過剰反応するようになったと考えられます。ノルマンディからの侵攻ルートを記した書類や、マーケットガーデン作戦の命令書を入手しますが、欺瞞作戦を疑い情報を廃棄してしまいます。
映画本編の方は、恋愛要素は要らんかったかなぁ。純粋に欺瞞作戦のスリルに集中してほしかったなぁと。それに尽きまする。個人的には、物足りなかったです。かなり。
ちなみに作戦名の「ミンスミート」は1941年に実行されたサルディーニャ島の空襲作戦のコードネーム。作戦名そのもも再利用することによって、新しい欺瞞作戦である事が露見することを避けようとしたんですね。